バドミントンと心臓突然停止、生死を分ける数分間
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- スポーツ中の心停止の多くは、趣味でプレーする中年男性に起き、たいていは本人も知らなかった冠動脈の病気が原因です。若い人では、遺伝性や炎症性の心臓の病気が多くなります。
- 激しい運動は一時的に危険を何倍にも高めます。スウェーデンの研究では、週2回を超えて運動していた男性で約12倍、ほとんど運動しない男性では100倍を超えました。
- 中国のある省で集められたスポーツ関連の突然死374件のうち、バドミントンは12%でした。ただしこの割合は、危険の大きさと同じくらい競技人口の多さを映しています。
- 居合わせた人が心肺蘇生を行い、公共のAEDを使える場所では、生存率が60%を超えることがあります。ある登録研究では、両方を受けた若い成人11人のうち10人が助かりました。
2024年6月30日、インドネシア・ジョグジャカルタで開かれたバドミントンのアジアジュニア選手権で、中国の17歳の選手、張志傑(チャン・ジージエ)さんがコート上で倒れ、亡くなりました。医師の説明によると、死因は心臓突然停止でした。ちょうど1年後、マレーシア・スンガイプタニのバドミントン場では、51歳の男性が試合中に友人へ「めまいがする」と伝え、歩き出そうとしたところで倒れ、病院に着いて間もなく亡くなりました。警察によると、解剖で心筋梗塞が見つかりました。
2人の死が映しているのは、別々の問題です。17歳の選手は、心臓の病気を隠し持つ若い人という小さな集団に入ります。クラブの男性は、それよりずっと大きな集団に入ります。フランス、ドイツ、カナダの登録研究では、スポーツ中の心停止の大半は趣味でプレーする中年男性に起き、たいていは本人も知らなかった冠動脈の病気が原因でした。中国のある省では、こうした突然死が起きた競技としてバドミントンが3番目に多くなっていました。
この記事では、プレー中に心臓が止まると何が起きるのか、誰がいつ危ないのか、居合わせた人の心肺蘇生から体育館のAEDまで、何が救命率を上げると確かめられているのか、そして検診をめぐる議論を見ていきます。結論は、心臓によい競技をやめることではありません。慎重にプレーし、警告のサインを見逃さず、心肺蘇生を身につけることです。
コートで心臓が止まるとき何が起きるか
心臓突然停止は、心臓の電気系統の故障です。たいていは心臓の下の部屋(心室)が心室細動という無秩序なリズムに陥ってポンプとして働かなくなり、選手は数秒で倒れます。British Journal of Sports Medicine誌に2025年に載った、映像に残る48件の分析では、多くの人が倒れる前によろめいたり体を揺らしたりしていました。倒れたあと、胸が映っていた人は全員が呼吸のような動きや、あえぐような呼吸を続け、けいれんのような動きもよく見られました。居合わせた人はこれを「生きている」しるしと受け取りがちですが、そうではありません。
背景にある病気は年齢によって違います。2005〜2010年のフランス全国調査では、スポーツに関連した突然死820件のうち原因がはっきりしたのは4分の1にとどまり、その4分の3が冠動脈の病気でした。ドイツの登録研究では、35歳未満では心筋炎、35歳以上では冠動脈の病気が最多でした。ドイツとパリの18〜35歳の心停止147件でも、確定した原因のうち冠動脈の病気(25.8%)が遺伝性の心筋の病気(21.3%)をわずかに上回っていました。
スポーツ中に心停止を起こすのは誰か
カナダ5州の成人におけるスポーツ関連の心臓突然停止の発生率(10万人年あたり)。2016〜2020年、スポーツ中または終了後1時間以内の339件。
出典:Visanji et al., Canadian Journal of Cardiology(2025)、doi:10.1016/j.cjca.2024.11.017。年齢区分はTCTMD(2025年2月10日)の報道による。
どの地域でも男性が圧倒的に多く、カナダでは93.8%、フランスでは95%、中国・広東省では男女比がほぼ20対1でした。カナダの患者の平均年齢は58歳です。女性もスポーツをするので、参加者の数だけではこの差を説明できません。研究者は、男性に冠動脈の病気が多いことや、激しい運動が引き金になる効果が男性で強いことを挙げていますが、理由はよくわかっていないと認めています。
危険が集中するところ

危険は時間の中で集中します。運動が心臓の病気をつくるわけではありませんが、病気のある心臓を心室細動に傾けることはあります。米国の医師2万1,481人を12年間追った「医師健康調査(Physicians’ Health Study)」では、激しい運動の最中と終了後30分以内の突然死の危険は、それ以外の時間の16.9倍でした。それでも絶対的な危険でみると、運動151万回に1人の割合にすぎません。
危険の跳ね上がり方は、ふだんの運動習慣によって変わります。2026年に発表されたスウェーデンのケース・クロスオーバー研究は、心筋梗塞で突然死した男性192人を調べました。84%は週1回未満しか運動していませんでした。この人たちでは、激しい運動は危険の108倍の上昇と結びついていたのに対し、週2回を超えて鍛えていた男性では12倍でした。著者らは、この数字が1回の運動の長さについての仮定に左右されると注意しています。
運動習慣で変わる、1回の激しい運動の危険
激しい運動の最中と終了後30分以内の心臓突然死の相対危険(それ以外の時間との比較)。ケース・クロスオーバー研究による相対危険で、絶対的な危険ではありません。
出典:Vikström et al., IJC Cardiovascular Risk and Prevention(2026)、doi:10.1016/j.ijcrp.2026.200588、Albert et al., NEJM(2000)、Whang et al., JAMA(2006)。スウェーデンの研究チームは利益相反なしと申告。
バドミントンは、引き金になりやすい競技の特徴に当てはまります。速く、動いては止まり、勝ち負けを競うからです。ある試験では、運動習慣のなかった女性が趣味のバドミントンをしたとき、心拍数は平均で最大心拍数の75%、1回の練習時間の13%は90%を超えていました。法医学の研究者が広東省で2017〜2021年のスポーツ関連の突然死374件を集めたところ、バドミントンはバスケットボール、ランニングに次ぐ3位で、全体の12%でした。4件に3件はプレー中に、5件に1件はその後1時間以内に起きていました。
広東省のスポーツ関連の突然死(2017〜2021年)
法医学の研究者が集めた374件。それぞれの特徴にあてはまる割合。
出典:Ma et al., Fayixue Zazhi(法医学雑誌)38(2):246(2022)、doi:10.12116/j.issn.1004-5619.2021.410908。原因で最も多かったのは心臓突然死(67.1%)。
この12%は誤解されやすい数字です。これは死亡に占める割合で、発生率ではありません。広東省でそれぞれの競技を何人が、どれだけの時間プレーしているかを数えていないため、バドミントンがほかの運動より危ないとは言えません。単に競技人口が多いだけかもしれません。解剖が行われたのは亡くなった人の1.07%だけで、原因も確かではありません。そして、現場で救命処置を受けたのは6.15%にすぎませんでした。
前ぶれのある心停止もあります。フランスとドイツの若い成人の研究では、冠動脈の病気があった23人のうち13人が、事前に胸の痛みを中心とする心臓の症状を訴えており、著者らは症状があっても運動を続けていた人が多かったと指摘しています。米国心臓協会(AHA)は、胸・首・あご・腕の不快感、いつもと違う息切れ、ふらつき、速い脈や不規則な脈を、運動をやめて医師に診てもらうべきサインに挙げています。
救命率を上げると確かめられていること

スポーツ中の心停止はたいてい誰かに目撃されているので、本来は助かりやすいはずです。しかし、目撃した人がいつも動けるとは限りません。2005〜2010年のフランス全国調査では、倒れた場面の93%が目撃されていたのに、居合わせた人が心肺蘇生を始めたのは30.7%で、生きて退院できたのは15.7%でした。居合わせた人の心肺蘇生は独立した生存の予測因子で、生存のオッズを3.7倍に高めていました。その後のデータは、これがどれほど変わりうるかを示しています。
同じ研究グループは、パリ首都圏で2005〜2018年のスポーツ関連の心停止377件を追いました。1年あたりの件数はほとんど変わらず、患者の年齢や男女の割合も同じでした。変わったのは周りの対応です。最初と最後の2年間を比べると、居合わせた人の心肺蘇生は34.9%から94.7%に、公共のAEDの使用は1.6%から28.8%に、生きて退院できた割合は23.8%から66.7%に上がりました。観察研究なので、ほかの医療の進歩も影響した可能性があります。
同じ心停止、よくなった対応
スポーツや運動に関連した心停止で、居合わせた人の心肺蘇生、公共のAEDによる除細動(救急隊の到着前の電気ショック)、生存の割合。初期と後期の比較。観察的な登録研究。
出典:Karam et al., JACC(2022)、doi:10.1016/j.jacc.2021.11.011(2005〜2018年の2年ごとの期間)、Kiyohara et al., JAHA(2017)、doi:10.1161/JAHA.117.005786(目撃された運動関連の心停止)。
日本は、政策で何ができるかを示しています。公共の場へのAED配備は2004年7月に始まり、大阪府では2013年までに公共のAEDが2万5,000台を超えました。運動中に目撃された心停止のうち、救急隊の到着前に電気ショックを受けた人の割合は2005年の7.1%から2012年には62.1%に増え、脳の機能が良好な状態での生存は2倍になりました。日本循環器学会の指針はスポーツ施設をAEDの設置が推奨される場所に挙げており、施設内で起きた心停止は転帰がよくなっていました。
スポーツ中の心停止後の生存
生存した人の割合(退院時または30日後)。対応や場所による違い。登録研究ごとに定義が違うため、大まかな比較として見てください。
出典:Bohm et al., Europace 25(2):627(2023)、Ungaro et al., British Journal of Sports Medicine 60(1):20(2026)、Wolthers et al., Resuscitation(2022)、Frisk Torell et al., PLOS ONE(2019)、Marijon et al., Circulation(2011)。
逆のことも起きます。2025年4月、マレーシアのニュースサイトは、セランゴール州プチョンで夜のバドミントンの練習中に倒れた人が、すぐそばの床にAEDがあったのに亡くなったと伝えました。その場の誰も使い方を知らなかったのです。1人が心肺蘇生をしている横で、プレーを続ける人もいました。フランスとドイツの研究者は、居合わせた人がためらう理由として、手近に機器がないこと、使い慣れていないこと、電気ショックへの恐れ、公共の場での使用に関する地域の規則を挙げています。
トップレベルの大会も例外ではありません。張さんが倒れたとき、映像では医師が駆けつけるまでに約40秒かかったように見えました。大会の医師が「審判長の指示のもとで」対応するとしている世界バドミントン連盟(BWF)は検証を始め、医事委員会の委員長は、大会会場にAED、酸素、救急車を備えるよう勧めました。
意見が分かれるのが検診です。欧州のガイドラインは、35歳を超えてスポーツを始める人を、一人ひとりの心血管リスクに応じて評価するよう勧めています。米国はもっと慎重で、米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、症状のない低リスクの成人に安静時や運動負荷の心電図検査を行わないよう勧告しました。AHAも偽陽性や費用の問題を挙げ、運動負荷試験は、激しいスポーツを計画する運動不足の糖尿病の男性など、リスクの高い人に限っています。
答えはやめることではなく、慎重にプレーすること

プレーに費やされる時間全体と比べれば、こうした出来事はまれです。米国の中年の看護師では、中等度から激しい運動3,650万時間に1件の心臓突然死でした。引き金の研究には、もうひとつのメッセージもあります。運動中に最も危険が高かったのは、ふだんほとんど運動しない男性でした。1984年の米国の研究では、定期的に激しい運動をしている男性の全体的な危険は、運動しない男性の40%にすぎず、バドミントンのけがについての記事で紹介したように、ラケット競技をする人は平均して長生きです。
ですから大事なのは、プレーするかどうかではなく、どうプレーするかです。中年になって再開するなら、いきなり本気のシングルスから始めず、少しずつ体を慣らしましょう。ウォーミングアップとクールダウンを行い、胸の痛み、いつもと違う息切れ、めまい、動悸があればやめて診てもらいましょう。AHAが勧めるように、蒸し暑い体育館では強度を落とします。クラブは、いちばん近いAEDの場所を全員に知らせ、会員に心肺蘇生の講習を勧めることができます。
よくある質問
バドミントンで心筋梗塞になることはありますか?
バドミントンが心臓の病気をつくるわけではありません。ただ、ほかの激しい運動と同じように、すでに冠動脈が狭くなっている人や、気づいていない心臓の病気がある人では、心筋梗塞や心停止の引き金になることがあります。危険が最も高いのは、ふだんほとんど運動しない人です。
プレーをやめるべき警告のサインは?
胸・首・あご・腕の不快感、いつもと違う息切れ、ふらつきやめまい、速い脈や不規則な脈です。すぐにやめて休み、再びプレーする前に医師の診察を受けてください。症状が治まらなければ救急車を呼びましょう。
50歳でプレーする前に心電図を受けるべきですか?
全員に当てはまる決まりはありません。欧州のガイドラインは35歳を超える人を心血管リスクに応じて評価し、米国の機関は症状のない低リスクの成人への一律の心電図検査を勧めていません。症状、糖尿病、高血圧、若くして心臓病になった家族がいる場合は特に、医師に相談してください。
プレー中の人が倒れたらどうすればいいですか?
反応がなく、ふだんどおりの呼吸がなければ(あえぐような呼吸もふだんどおりではありません)、救急車を呼び、胸骨圧迫を始め、誰かにいちばん近いAEDを取りに行ってもらいます。AEDの電源を入れ、音声の指示に従ってください。意識が戻るかどうか様子を見て待ってはいけません。
まとめ
- スポーツ中の心停止の多くは、趣味でプレーする中年男性に起き、たいていは本人も知らなかった冠動脈の病気が原因です。若い人では、遺伝性や炎症性の心臓の病気が多くなります。
- 激しい運動は一時的に危険を何倍にも高めます。スウェーデンの研究では、週2回を超えて運動していた男性で約12倍、ほとんど運動しない男性では100倍を超えました。
- 中国のある省で集められたスポーツ関連の突然死374件のうち、バドミントンは12%でした。ただしこの割合は、危険の大きさと同じくらい競技人口の多さを映しています。
- 居合わせた人が心肺蘇生を行い、公共のAEDを使える場所では、生存率が60%を超えることがあります。ある登録研究では、両方を受けた若い成人11人のうち10人が助かりました。
- プレーは続け、少しずつ体を慣らし、胸の痛み・めまい・動悸があればやめ、心肺蘇生のやり方と体育館のAEDの場所を覚えておきましょう。
この記事は公表された研究と報道の要約であり、医学的な助言ではありません。運動中に症状がある方、心臓の病気がわかっている方、家族に突然死をした人がいる方は、激しくプレーする前に医師に相談してください。心肺蘇生とAEDは命を救います。人が倒れてふだんどおりの呼吸がなければ、119番などの救急番号に通報し、胸骨圧迫を始め、いちばん近いAEDを使ってください。
さらに読む:運動に関連した心臓の事故についての米国心臓協会の声明は Franklin et al., Circulation(2020)。若い成人の心肺蘇生とAEDによる生存は Bohm et al., Europace(2023)。定期的な運動が引き金の効果をどう変えるかは Vikström et al.(2026)。
- Super Agers、Eric Topol(2025)。循環器医で研究者の著者が、運動や心臓の健康を含め、年をとっても健康でいるための根拠を整理します。
- The Art of Uncertainty、David Spiegelhalter(2024)。ケンブリッジ大学の統計学者が、偶然とまれな出来事について語ります。相対危険と絶対的な危険を見分けるのに役立ちます。
- Outlive、Peter Attia(2023)。医師が中年からの心臓病予防と体力づくりを論じた本。心血管リスクの話に強い一方、根拠を超えた助言もあるので批判的に読むのがおすすめです。
参考文献
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- Visanji M, Allan KS, Charette M, et al. Sports-related sudden cardiac arrest in Canada: incidence and survival. Canadian Journal of Cardiology (2025), doi:10.1016/j.cjca.2024.11.017; TCTMD report, 10 February 2025.
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