ラグビーのスクラムのけが、16.5キロニュートンの衝撃と、それをやわらげた「先に組む」ルール
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- トップレベルのフォワード8人がスクラムマシンに当たる瞬間の力は最大16.5キロニュートン。現在、スクラムでの脊髄損傷の多くは崩れたときより組み合う瞬間に起きています。
- 南アフリカでは2008〜2011年、15人のうち1人にすぎないフッカーが、後遺障害の残る脊髄損傷の46%を占めました。ジュニアより成人のアマチュアがはるかに多く負傷しています。
- スクラムでの脊髄損傷は全体ではタックルより少ないものの、後遺障害が残る割合が高く、南アフリカのデータでは82%対50%でした。
- 先に組んでから押す方式(クラウチ・バインド・セット、2013年)でフロントローにかかる最大の力は14〜25%減りました。ニュージーランドでは2001〜05年、重い障害が残るスクラム事故が予測9件に対し1件でした。
2025年2月、南アフリカ代表として83キャップを持ち、ワールドカップで2度優勝したプロップ、スティーブン・キッツホフ選手(33)が、全ての試合からの引退を発表しました。前年の国内の試合で首を痛めていました。「いつもどおりのスクラムでした」と現地紙『ラポルト』に語り、バキッという音が3回したと振り返っています。そのままプレーを続けましたが、のちに腰の骨を使って首の椎骨を固定する手術を受け、「あと2ミリで大惨事だった」と話しました。
かかる力は大きなものです。英バース大学の研究者が34のフォワードパックに計測器付きのスクラムマシンを押させたところ、代表やトップクラブのパックが当たる瞬間の最大の力は16.5キロニュートン、約1.7トンの重さに相当しました。この最初の衝撃、つまり組み合う瞬間(エンゲージ)こそ、現代のスクラムでの脊髄損傷の多くが始まる場面です。南アフリカでは2008〜2011年、スクラムでの事例の56%が組み合う瞬間に、39%がスクラムが崩れたときに起きていました。
この記事では、タイミングを誤ったエンゲージや崩れたスクラムがフロントローの首に何をもたらすのか、誰がリスクを負っているのか、2013年のクラウチ・バインド・セットからニュージーランドの「ラグビースマート」、南アフリカの「ボクスマート」まで、効果が測定された対策、その成果が見た目ほど確かではない理由、そしてスクラムをやめるのではなく、訓練を受けたフロントローと制御された組み方こそが答えである理由を見ていきます。
崩れたスクラムで首に何が起きるか
スクラムでは両チームのフロントローが頭を突き合わせ、それぞれの頭は相手2人の間に挟まります。何十年もの症例報告が描くのは同じ重大な損傷です。首の中ほど、多くはC4〜C6のあたりで骨折と脱臼が起き、脊髄が傷つきます。従来の説明は「過屈曲」でした。首をわずかに曲げたまま組むと本来のカーブがまっすぐになり、タイミングがずれたりスクラムが崩れたりしたときに、肩ではなく曲がった首に荷重がかかるというものです。
この見方には生体力学の研究者から異論が出ています。クスター氏らのシステマティックレビューは、最も多い損傷である両側の椎間関節の脱臼は「座屈」で説明したほうがよいと論じました。首が縦方向に圧縮され、両端から押された定規のようにたわみ、可動域の限界に達する前、ほんの数ミリ秒で壊れるという考え方です。これに対し、遺体を使った実験では決着がつかないという反論もあります。ただ、避けるべきものについては両者の意見が一致しています。圧縮と曲げが同時に加わる急激な荷重です。
パックがスクラムマシンに当たる瞬間の最大の力
計測器付きのスクラムマシンを押したときの、エンゲージ時の最大圧縮力(キロニュートン)。レベル別、計34パック。
出典:Preatoni et al., IRCOBI会議(2012)、Trewartha et al., British Journal of Sports Medicine(2015)表2。1パック対マシンの測定で、実際の対戦とは異なります。
力は年々大きくなっています。1990年の研究ではパックが組み合う速さは秒速約2メートルでしたが、バース大学の研究の代表パックでは約3メートルでした。エンゲージの際の下向きの力は3.9キロニュートンに達し、これがスクラムを地面へ押しつぶす成分です。繰り返しの負荷も跡を残すようです。南アフリカの放射線科医は、クラブ選手150人では年齢をそろえた一般の150人より首の骨の変性が多く、とくにフロントローで目立つことを報告しました。
リスクが集中する場所

リスクの大半を負うのはフッカーです。南アフリカのボクスマートの登録制度は、2008〜2011年に45件の急性脊髄損傷を記録しました。15人のうち1人にすぎないフッカーが、後遺障害の残った26件のうち12件を占め、その12件のうち10件はスクラムで起きていました。米国では1970〜1996年、スクラムで首を傷めた選手の78%がフッカーでした。両腕を左右のプロップに回して組むため、フッカーはエンゲージがうまくいかなかったときに体を支えたり姿勢を変えたりできません。
レベルも関係します。南アフリカのデータでは、後遺障害の残る脊髄損傷はシニア選手で年10万人あたり4.52件、ジュニアでは0.24件でした。後遺障害が残った割合もシニアの85%に対しジュニアは26%です。著者らは、押せる距離を1.5メートルまでとし、スクラムを回すことを禁じた19歳以下の厳しいルールを理由に挙げました。また、体づくりが不十分な週末だけの選手や、人数の少ないチームで慣れないポジションに入る選手が、成人のリスクを高めている可能性も指摘しています。
重い首のけがに占めるフッカーの割合
3つの登録制度・症例報告で、負傷者のうちフッカーが占めた割合。先発15人に占めるフッカーの割合と比較。
出典:Wetzler et al., American Journal of Sports Medicine(1998)、Brown et al., BMJ Open 3(2):e002475(2013)、Bohu et al., American Journal of Sports Medicine(2009)。
首の骨折に至る経路はスクラムだけではありません。1956〜2004年の報告をまとめると、重大な脊髄損傷の原因はスクラムが42%、タックルが34%、ラックとモールが20%でした。南アフリカの1980〜2007年ではタックルが45%と、スクラムの37%を上回っています。タックルと、その高さをめぐるルールについてはラグビーのタックルとけがに関する以前の記事で取り上げました。スクラムが際立つのは、後遺障害が残る割合の高さです。
脊髄損傷のうち後遺障害が残る割合
急性脊髄損傷のうち後遺障害が残った割合(英国・アイルランドは神経機能の完全な喪失の割合)。プレーの局面別。
出典:Brown et al., BMJ Open(2013)、19歳以下の脊髄損傷センターのデータ(Trewartha et al., British Journal of Sports Medicine(2015)による要約)。
よく繰り返される状況が2つあります。1つは力の差です。ニュージーランドの2つの病院で1992〜1997年のラグビーによる首の骨折を調べたところ、スクラムでの5件のうち4件で、負傷した選手は相手のスクラムのほうが強かったと感じていました。もう1つはスクラムの崩壊です。2011〜12年のイングランド・プレミアシップでは、スクラムの31%が崩れ、崩れたスクラムでは1,000回あたり8.6件のけがが起き、崩れなかったスクラムの4.1件を上回りました。
効果が測定された対策

組み合うときの掛け声は何度も変わってきました。レフリーは2007年から「クラウチ・タッチ・ポーズ・エンゲージ」、2012年から「クラウチ・タッチ・セット」と声をかけていました。バース大学のグループは続いて、実際の対戦で3つ目の方式を試しました。プロップが「セット」の合図の前に相手をつかんで組んでおくもので、パック同士の距離が縮まり、突進できなくなります。プロ11チームでは、エンゲージの瞬間にフロントロー全体にかかる最大の力が約8.8キロニュートンから約6.3キロニュートンへ、およそ4分の1減り、その後に押し続ける力は落ちませんでした。
5つのレベルの27チームでは、この「プレバインド」によってパック間の距離が27%、ぶつかる速さが20%以上、フロントローにかかる最大の負荷が14〜25%減りました。この方式は2013年に「クラウチ・バインド・セット」としてルールになりました。シックス・ネーションズでは導入後、スクラムの崩壊、組み直し、早すぎるエンゲージが減り、衝撃より押し合いが中心になってスクラムの時間が長くなりました。2022年からはフッカーが「クラウチ」と「バインド」の間、片足を前に出しておく「ブレーキフット」も求められています。首への縦方向の負荷を減らすためのもので、2026年7月1日から正式なルールになりました。
衝撃をやわらげたエンゲージで変わったこと
上:トップレベルの実際のスクラムで、2つの組み方でフロントロー全体にかかった最大の力(キロニュートン)。下:2011〜12年イングランド・プレミアシップのスクラム1,000回あたりのけが。
出典:Cazzola et al., British Journal of Sports Medicine(2015)、doi:10.1136/bjsports-2013-092904(Trewartha et al.(2015)による要約)、Taylor et al., British Journal of Sports Medicine(2014)。
ルールと同じくらい、教育も効いたようです。ニュージーランドでは2001年から、すべてのコーチとレフリーに毎年「ラグビースマート」の受講が義務づけられ、体づくり、けがへの対応、安全なコンタクトの技術を学びます。2001〜05年に記録された、重い障害の残るスクラムでの脊髄損傷は1件で、それ以前の傾向からの予測は9.0件、相対率は0.11でした。ほかの局面でのけがはほとんど変わりませんでした。南アフリカでは2009年にボクスマートが始まった後、ジュニアの重大なけがが40%減りましたが、シニアでは有意な変化はありませんでした。
ラグビースマート導入前後のニュージーランド
ニュージーランドのラグビーユニオンで2001〜05年に起きた、重い障害の残る脊髄損傷。1976〜2000年の傾向からの予測数と実際の数。
出典:Quarrie et al., BMJ 334(7604):1150(2007)。対照群のない生態学的研究。スクラムの相対率0.11(95%信頼区間0.02〜0.74)。
ただし、これらの数字は見た目より小さく、不確かです。ニュージーランドの研究には対照群がなく、1998年より前の選手数で調整できず、スクラムによる事故の減少のうち8〜10%はスクラムの回数が減ったためと見積もっています。国際試合では1試合あたりのスクラムが1980年代初めの31回から19回に減りました。さらに以前の調査は、1990年代半ばに安全教育の義務化が始まってから18か月間、スクラムでの重い脊髄損傷が1件もなかったと報告していました。ラグビースマートより何年も前のことです。ボクスマートの評価は、選手数が一定だと仮定していました。
首の筋力トレーニングは広く勧められていますが、効果の証明は十分ではありません。等尺性の運動で首が確実に強くなることはわかっています。しかし2021年のシステマティックレビューでは、それで脳振とうが減るかを調べたラグビーユニオンの研究は見つかりませんでした。あるプロチームの27人を振り返った分析でも、26週間のプログラムの後に首のけがの件数に有意な差はありませんでした。理にかなった準備ではあっても、効果が示された盾ではありません。
やめるのではなく、慎重に組むべき理由

押し合うスクラムを禁止すべきだという声は繰り返し上がり、ラグビーリーグには先例があります。オーストラリアの調査によると、リーグが1996年に押し合わないスクラムを採用してから、スクラムでの脊髄損傷はなくなりました。ユニオンは押し合いを残しつつ、安全弁を設けています。ルール3.12は、フロントローの選手と交代選手が適切な訓練と経験を積んでいることを確認する責任を各チームに課し、ルール3.13は、どちらかのチームがそうしたフロントローをそろえられない場合、スクラムをノンコンテスト(押し合いなし)にすると定めています。
絶対的なリスクは小さく、南アフリカでは2008〜2011年、後遺障害の残るスクラムでの脊髄損傷は年10万人あたり約0.54件でした。そのリスクの大半は特定できる場所、つまりエンゲージ、崩壊、フッカー、成人のアマチュア、力の差に集中しており、それぞれに手の打ちようがあります。プレバインドは衝撃の勢いを抑え、19歳以下のルールは押す距離を制限し、技術のあるフロントローとレフリーはスクラムを崩さずに保ちます。
もともとフロントローの選手に認定証を求めていたフランスは、2010年にスクラムのルールを変え、その後スクラムでのけがが有意に減りました。実践としては、実戦で組む前に資格のある指導者から組み方を学び、プレシーズンに段階的に慣らすこと。人数合わせでフッカーやプロップに入らず、ノンコンテストスクラムを求めること。レフリーは崩れかけたスクラムを組み直させること。首のけがが疑われるときは、選手を動かさないことです。
よくある質問
首の重いけがのリスクが最も高いポジションは?
フッカーです。南アフリカのデータでは、15人のうち1人のフッカーが後遺障害の残る脊髄損傷の46%を占め、その多くはスクラムで起きていました。スクラムでのけがでは、次にプロップが続きます。
クラウチ・バインド・セットでスクラムは安全になりましたか?
衝撃はやわらぎました。実際のスクラムの測定では、フロントローにかかる最大の力が14〜25%減り、国際試合ではスクラムの崩壊も減りました。ただ、重大事故はまれなため、直接の効果はまだ示せていません。
ノンコンテストスクラムのほうが安全ですか?
押し合いがなくなり、ユニオンのルールでは適切な訓練を受けたフロントローがいない場合に義務づけられています。ラグビーリーグでは、1996年に押し合わないスクラムへ切り替えてから、スクラムでの脊髄損傷は報告されていません。
首の筋力トレーニングで首のけがは防げますか?
首の筋力は確実に上がりますが、ラグビーユニオンで重大なけがや脳振とうを防ぐことはまだ示されていません。技術の習得とあわせた、よい準備と考えてください。
まとめ
- トップレベルのフォワード8人がスクラムマシンに当たる瞬間の力は最大16.5キロニュートン。現在、スクラムでの脊髄損傷の多くは崩れたときより組み合う瞬間に起きています。
- 南アフリカでは2008〜2011年、15人のうち1人にすぎないフッカーが、後遺障害の残る脊髄損傷の46%を占めました。ジュニアより成人のアマチュアがはるかに多く負傷しています。
- スクラムでの脊髄損傷は全体ではタックルより少ないものの、後遺障害が残る割合が高く、南アフリカのデータでは82%対50%でした。
- 先に組んでから押す方式(クラウチ・バインド・セット、2013年)でフロントローにかかる最大の力は14〜25%減りました。ニュージーランドでは2001〜05年、重い障害が残るスクラム事故が予測9件に対し1件でした。
- 根拠は件数が少なく、ほかの要因も混ざっていますが、指し示す方向は同じです。訓練を受けたフロントロー、制御された組み方、迷ったらノンコンテストスクラム。
この記事は公表された研究の要約であり、医学的な助言ではありません。スクラムやタックルの後に首の痛み、しびれ、ちくちくする感覚、力が入らないなどの症状があれば、プレーをやめて医師の診察を受けてください。選手の首について気になることがあるコーチは、医師か理学療法士に相談してください。グラウンドで脊髄のけがが疑われるときは、選手を動かさずに救急車を呼んでください。
さらに読む:スクラムのけがと生体力学の総説は Trewartha et al., British Journal of Sports Medicine(2015)。ラグビースマートと脊髄損傷は Quarrie et al., BMJ 334:1150(2007)。南アフリカの重大事故の登録制度は Brown et al., BMJ Open 3:e002475(2013)。
- Unforgettable、Steve Thompson(2022)。ワールドカップを制した元フッカーが、フロントローとしての経歴と、その長期的な代償を語った回想録。統計ではなく個人の体験の本です。
- The Data Detective、Tim Harford(2021)。統計を読み解く10のルール。劇的な減少がわずかな件数に基づいているときに役立ちます。
- The Art of Uncertainty、David Spiegelhalter(2024)。ケンブリッジの統計学者が、まれなリスクと、不完全な根拠のもとで行動することを解説。スクラムのルール改正を考える手がかりになります。
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