現代の建物では、ケガの原因は地震そのものではない。部屋の中のものだ
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この記事のポイント ・約14分で読めます
- ノースリッジ地震では、死亡の原因は建物の倒壊、入院の原因は転倒と物の直撃でした。備えで減らせるのは後者です。
- 近年の日本の地震では、けがのおよそ3分の1〜半分が家具の転倒・落下によるものでした。
- 阪神・淡路大震災の有名な「87.8%」は、家具と屋根の崩落をひとまとめにした数字です。扱いには注意が必要です。
- 「まず低く、頭を守り、動かない」。「命の三角形」はUSGSと米国赤十字が否定しています。ドア枠の下に逃げるのも、1世紀前の常識です。
2026年8月23日の夜明け前、茨城県南部の深さ70kmでマグニチュード5.9の地震が発生し、首都圏の多くの人が目を覚ますほどの揺れになりました。けが人は5都県で37人。倒壊した建物はなく、津波もありませんでした。東京・江東区では水道管が破裂して道路が冠水し、店では商品が棚から落ち、一部の電車に遅れが出ました。
では、その37人は実際にどうやってけがをしたのでしょうか。ほとんどは、寝ぼけたまま暗がりで動き回り、転んだり、家具やドアにぶつかったりした人でした。横浜市では80代の女性がベッドから落ちて重傷を負っています。多くの人が思い浮かべる「地震の被害」に当てはまるけがは、1件もありませんでした。けがの原因は地震ではなく、部屋だったのです。
これは地震のリスクのうち、ほとんど誰も備えていない部分です。そして同時に、ドライバー1本と半日の作業で変えられる部分でもあります。この記事で扱うのは、倒れずに残った建物の中で起きるけがです。現行の耐震基準で建てられた家なら、圧倒的に起こりやすいのはこのシナリオです。しかも対策は安く、地味で、ほとんど実行されていません。
人の命を奪うのは建物、けがをさせるのは室内のもの
この点について最もはっきりしたデータは、1994年にロサンゼルスで起きたノースリッジ地震のものです。カリフォルニア州は病院の記録をしっかり残しており、地震の後に疫学者がそれを調べたからです。ロサンゼルス郡では、集計対象となる重さの地震関連のけがが171件確認されました。内訳は死亡33人、入院138人です。
この2つのグループは、けがの仕方がまったく違っていました。
2つの異なるメカニズムと、2つの異なる結果
1994年ノースリッジ地震による死亡と入院(ロサンゼルス郡)
出典:Peek-Asa, C. et al., “Fatal and hospitalized injuries resulting from the 1994 Northridge earthquake,” International Journal of Epidemiology, 27(3), 1998.
この傾向はほかの地震でも変わりません。厳しい耐震基準がある国でのマグニチュード5.9なら、死亡の欄は空で、けがの欄は打撲や切り傷、股関節の骨折で埋まります。補強のない組積造の建物が多い地域でのマグニチュード7なら、死亡の欄が大半を占めます。どちらの記事を読むべきかを決めるのは、住んでいる建物の耐震基準です。
けがのどれだけが「家具」によるものか
この問題を最も熱心に研究してきたのは、当然ながら日本です。下の数字は地震も調査方法も異なるため、互いに直接比べることはできません。それでも、珍しいほど一貫して同じ方向を示しています。
家具や物の転倒・落下が原因とされたけがの割合
3つの異なる調査。国も年代も異なります。
出典:シアトル市危機管理局(Seattle Office of Emergency Management)がまとめた日本の家具固定に関する研究、1990年ルソン島地震の負傷者調査
この分野で最もよく引用されるのは、1995年の阪神・淡路大震災(神戸、死者5,202人)の数字です。死者の87.8%と、負傷者4万3,800人の多くが、家具の転倒または屋根の崩落によるものとされています。この数字は「家具の統計」として繰り返し使い回されていますが、実際に何を示しているのかは正確に押さえておく価値があります。これは家具と屋根の崩落をひとまとめにした数字です。そして神戸では、重い瓦屋根の古い木造住宅が何千棟も倒壊し、死者の大半は屋根によるものでした。実在する数字ではありますが、家具の数字ではありません。
あえてこの点を指摘するのは、当サイトとしては大きくて印象的な数字よりも、小さくても正直な数字をお伝えしたいからです。正直な数字は上に示したとおりです。倒れずに残った建物の中では、けがの3分の1〜半分程度が室内のものによって起きています。
「まず低く、頭を守り、動かない」と、なくならない俗説
「命の三角形(Triangle of Life)」というチェーンメールを見かけたことがあるかもしれません。テーブルの下には絶対に入らず、天井が落ちてきたときにできるすき間を狙って、重い家具の横に寝そべるべきだ、という主張です。2004年から出回っていて、大きな地震が起きるたびに今も浮上してきます。
これについてのUSGSの立場は、まったく歯切れがよいものです。
公的機関が実際にすすめていること
リスクに関する問題としては珍しく、公式の指針が完全に一致しています。
出典:U.S. Geological Survey FAQ “What is the Triangle of Life and is it legitimate?”、Doug Copp に対する米国赤十字の見解、Earthquake Country Alliance
もうひとつ、目立たないものの、実際のけがのリストにはほぼ必ず出てくる失敗があります。茨城の地震でもそうでした。それは揺れている最中に動くことです。ドア枠の下に駆け込む、誰かの様子を見に行く、階段に向かう。ノースリッジ地震のけがを分析した症例対照研究では、揺れの最中に動いていたことが、けがとの関連を示していました。揺れる床の上ではふつうに歩けませんし、たいてい照明は消えていて、床には割れたガラスが散らばっています。
ちなみに、ドア枠の下に逃げるという助言は、1900年ごろの日干しれんがの家では理にかなっていました。壁の中で補強されていたのがドア枠だけだったからです。現代の家では、ドア枠が周りの壁より丈夫ということはありません。しかもドア自体が、手首を折るほどの勢いで閉まることがあります。
部屋を歩いて、上を見上げる
役に立つのは、何かを買うことではありません。部屋ごとに立って、ひとつだけ自問してみることです。この床が1秒に2回、30cmほど横に揺れるのが40秒続いたら、何が落ちてくるか。その下に誰かいるか。
危険なもの(問題になりやすい順)
最優先で対策すべき部屋は寝室です。毎晩8時間、意識のないまま横になってじっとしている唯一の部屋だからです。
出典:Earthquake Country Alliance “Secure Your Space”、FEMA E-74 Reducing the Risks of Nonstructural Earthquake Damage、Governor’s Office of Emergency Services Nonstructural Earthquake Hazards
効果がある対策を、ほとんど誰もしていない
家具を壁に固定することは、この分野の対策の中で最も仕組みがはっきりしたものです。ところが、それを最も必要とする国でさえ、実施率は最も低いのです。
家具を固定していると答えた世帯の割合
日本の調査データ。静岡県は想定される東海地震の震源域にあり、何十年も啓発キャンペーンを続けてきました。棒グラフの差は、その効果を表しています。
出典:シアトル市危機管理局がまとめた日本の家具固定に関する研究、2010年の日本の全国調査、2009年の静岡県調査
この差の大部分は、2つの理由で説明できます。ひとつは賃貸住まいで、大家さんの壁に穴を開けてはいけない気がすること。もうひとつは、面倒な作業だと思い込んでいることです。たしかに作業ではあります。ただし1台あたり10分ほど、費用は数ドル程度の作業です。
本当に効く対策(効果の高い順)
けがの減り方が大きいものから順に
最初の4つは無料です。
出典:Earthquake Country Alliance “Seven Steps to Earthquake Safety”、FEMA E-74、California Earthquake Authority のガイダンス
必要な道具と、選ぶときの条件 (広告リンク)
どれもホームセンターで普通に売っているものです。ブランドより仕様のほうが大事です。
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あえてリンクしないものが2つあります。1つ目は吸盤式や粘着テープだけの家具固定具です。本物の固定具の隣で売られていますが、どちらも同じように役に立ちません。粘着剤は力がかかり続けると少しずつずれ、吸盤は表面がたわむと外れます。そしてどちらも、力を建物の構造材に伝えていません。最後に間柱へのねじ止めがないなら、それは飾りにすぎません。2つ目は個人向けの「緊急地震速報」ガジェットです。日本、メキシコ、米国西海岸のShakeAlertのように国の早期警報システムがある地域では、警報はすでにスマートフォンに無料で届きます。しかも、どんな機器が中継するよりも数秒早く届きます。買うべきものはありません。
揺れが収まった後の10分間
けがの第2波が起きるのはここです。中規模の地震が高くつく地震に変わるのも、このタイミングです。茨城の地震で目立った被害は、倒れた建物ではなく水道管の破裂でした。これは一般的なパターンで、配管、接続部、家電は継ぎ目から壊れます。
すべきこと、やめるべきこと
最初の10分間に、この順番で。
| すること | 理由 |
|---|---|
| 揺れが止まるまで低い姿勢のまま | 揺れは数秒〜1分ほど続きます。早く立ち上がると転倒します。 |
| 歩く前に靴をはく | ガラスがあるからです。地震全体を通じて、最も多い「避けられるけが」です。 |
| 火事とガスのにおいを確認 | 人口の密集した都市では、地震後の火災が揺れそのものより大きな被害を出してきました。ガスのにおいがしたら外に出て、屋外で元栓を閉めます。 |
| 余震に備える | 2026年8月の地震の後、気象庁は1週間ほど同程度の揺れに注意するよう呼びかけました。最初の揺れでゆるんだものは、次の揺れで落ちてきます。 |
| 電話より文字で連絡 | 音声通話の回線は数分で混み合います。メッセージは順番待ちになっても届きます。 |
| エレベーターは使わない | 余震と停電があるからです。必ず階段を使います。 |
出典:USGS “What do I do after an earthquake?”、気象庁の発表(2026年8月)、Earthquake Country Alliance
よくある質問
Q. 賃貸でも家具を固定できる?
多くの賃貸契約では、小さなねじ穴は通常の損耗とみなされ、退去時にパテで埋めれば済みます。事前に確認し、答えを書面で残しておくとよいでしょう。ただ、現実的に比べるのは、わずかなパテ代と、ベッドの上に倒れてくるワードローブです。はっきり断られた場合でも、重いものを低い棚に移す、ベッドの上の壁に何も置かない、ベッドの下に靴を置く、といった無料の対策で効果の大部分は得られます。
Q. 自分の住む地域でも気にすべき?
直感に頼らず、自分の地域のハザード情報を調べてください。地震の危険度マップには意外な結果がよくあります。米国中部、ライン川流域、オーストラリア内陸部、朝鮮半島の大部分は、いずれもイメージ以上に地震の歴史があります。USGSは全米の地震ハザードマップを公開しており、ほとんどの国に同様のものがあります。本当にリスクが無視できるほど小さいとしても、同じ固定金具は、たんすが幼児の上に倒れるのを防いでくれます。そうした事故は、どこの地震よりもはるかに頻繁に起きています。
Q. 外に飛び出すべき?
揺れている最中はやめてください。ドア付近や階段は人が転ぶ場所ですし、ガラスや外壁材、瓦、パラペットが落ちてくる建物の外側は最も危険な場所です。その場で姿勢を低くし、建物が損傷していれば揺れが収まってから外に出ます。
Q. 地震保険はどうする?
ほとんどの国で、一般的な住宅所有者向け・賃貸向けの保険は、洪水と同じように地震による損害を対象外としています。地震は別の保険か特約になり、免責金額(自己負担額)も定額ではなく保険金額に対する割合で決まるのが一般的です。保険金を請求するときになって驚く人が少なくありません。これはまた別のテーマなので、住宅保険で補償されないものについての記事で、問題の全体像を説明しています。
Q. 「72時間キット」は買う価値がある?
考え方は正しいのですが、市販のセットはたいてい割高です。まとめ買いの栄養バー、試したこともない懐中電灯、そして家族の誰も実際には飲んでいない薬。水、充電済みの電池を入れた懐中電灯、モバイルバッテリー、処方薬のメモのコピー、靴1足のほうが、たいていのキットより役に立ちます。しかもその5つのうち4つは、すでに持っているはずです。
まとめ
- ノースリッジ地震では、死亡の原因は建物の倒壊、入院の原因は転倒と物の直撃でした。備えで減らせるのは後者です。
- 近年の日本の地震では、けがのおよそ3分の1〜半分が家具の転倒・落下によるものでした。
- 阪神・淡路大震災の有名な「87.8%」は、家具と屋根の崩落をひとまとめにした数字です。扱いには注意が必要です。
- 「まず低く、頭を守り、動かない」。「命の三角形」はUSGSと米国赤十字が否定しています。ドア枠の下に逃げるのも、1世紀前の常識です。
- 揺れの最中に動くこと自体が、けがのリスク要因です。2026年8月の首都圏の地震でも、けがの大半は落下物ではなく転倒や衝突によるものでした。
- 家の中で最悪のものはベッドの上の棚です。外してください。
- 家具を固定している日本の世帯は約4分の1にすぎません。知っていることと、実行することは別です。
- 最後が間柱へのねじ止めになっていない固定具は、飾りにすぎません。吸盤式は避けましょう。
- ベッドの下に靴と懐中電灯を。この記事で紹介する中で、最も安上がりなけが対策です。
この記事はけがの予防についてのもので、構造工学の解説ではありません。ご自身の建物に十分な耐震性があるかどうかは、地域の基準に詳しい構造設計の専門家に判断してもらう必要があります。家具をいくら固定しても、その診断の代わりにはなりません。
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参考文献
- Peek-Asa, C., Kraus, J.F., Bourque, L.B., et al. “Fatal and hospitalized injuries resulting from the 1994 Northridge earthquake.” International Journal of Epidemiology, 27(3): 459–465, 1998.
- Peek-Asa, C., Ramirez, M., Shoaf, K., et al. “GIS mapping of earthquake-related deaths and hospital admissions from the 1994 Northridge, California, earthquake.” Annals of Epidemiology, 10(1): 5–13, 2000.
- Shoaf, K.I., Sareen, H.R., Nguyen, L.H., Bourque, L.B. “Injuries as a result of California earthquakes in the past decade.” Disasters, 1998; and related Northridge case-control risk-factor analyses, Annals of Epidemiology, 2001.
- Seattle Office of Emergency Management. Furniture Anchoring: Japanese Research — summary of Japanese earthquake injury and anchoring-adoption surveys, including the 1995 Great Hanshin-Awaji figures, 2003–2008 injury attribution, and 2009–2010 household anchoring rates.
- U.S. Geological Survey. “What is the Triangle of Life and is it legitimate?” USGS FAQ.
- American Red Cross. Official response to the “Triangle of Life” by Doug Copp, 2004.
- FEMA. E-74: Reducing the Risks of Nonstructural Earthquake Damage — A Practical Guide.
- California Governor’s Office of Emergency Services. Nonstructural Earthquake Hazards.
- Earthquake Country Alliance. Seven Steps to Earthquake Safety, Step 1: Secure Your Space.
- Associated Press / Japan Meteorological Agency. Reporting on the magnitude 5.9 southern Ibaraki earthquake, 23 August 2026: 37 injured across five prefectures, no fatalities, no tsunami.
