経済制裁は効くのか:研究データでわかったこと
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- 最も有名な制裁の成功率34%は、Pape が同じ事例を再検証すると約4%に下がりました。
- 脅しも数に入れた大規模データセットでは、成功率は定義によって37.5〜56.3%になります。
- 経済に打撃を与える制裁は健康を損なう傾向があります。ある研究は、国連制裁で平均寿命が1.2〜1.4年縮むと推計しました。
- 国連と米国の制裁のどちらが害が大きいかは研究によって食い違い、多くの研究には設計上の大きな限界があります。
経済制裁は、戦争をせずに他国に対して行動を起こしたいときに、各国政府が手に取る道具になっています。米国、欧州連合(EU)、英国、国連は合わせて数十か国と数千の個人・企業に制裁を科しています。資産を凍結し、貿易を止め、銀行を決済システムから締め出し、渡航を禁じるのです。
どの制裁にも2つの問いがつきまといます。対象国の政府の行動を変えられるのか。そして、実際に代償を払うのは誰なのか。その答えは、制裁対象国に住んでいる人、取引している人、送金している人、渡航する人、そして制裁を科す側の国の有権者にとって重要です。
1つ目の問いについて、研究者は40年にわたって議論してきました。最も有名な成功率34%は、別の研究者が同じ事例を再検証すると約4%に下がりました。2つ目の問いについては、根拠はもっと一貫しています。強く効く制裁は一般の人々の健康を損なう傾向があります。ただ、その程度や、どの制裁がそうなのかについては、今も意見が分かれています。この記事では、研究でわかっていることと、見解が割れている点を整理します。
「34%」と「4%」の反論
現代の議論は1冊の本から始まります。1985年に初版が出た、Gary Clyde Hufbauer、Jeffrey Schott、Kimberly Ann Elliott の Economic Sanctions Reconsidered です。著者らは1914年以降に見つかる限りの制裁事例をすべてコード化し、それぞれが目的を達成したか、そして制裁がそれに寄与したかを判定しました。1990年までの事例を扱った版では、115件中40件、つまり34%が少なくとも部分的に成功したとされました。
この数字によって、専門家の見方は深い悲観から慎重な楽観へと変わりました。ところが1997年、政治学者の Robert Pape が学術誌 International Security で、成功とされた40件を検証し直しました。彼の主張では、その大半は実際には制裁の成功とは言えません。多くは軍事力が決め手だった、対象国が実質的な譲歩をしていなかった、あるいは結果が制裁で要求した内容と違っていた、というのです。彼の解釈では、40件のうち持ちこたえたのは5件だけで、115件全体での成功率は約4%になります。
Elliott が反論し、1998年には Pape がその反論に再反論しましたが、決着はつきませんでした。2020年にこの分野をレビューした Lee Jones と Clara Portela は、論争の核心はデータではなく、政府の方針転換を引き起こしたのがほかの何かではなく制裁だと、どう証明するかにあると指摘しています。これは今もこの分野で最も難しい問題です。
制裁はどのくらい成功するのか
データセットと「成功」の定義によって変わる、成功と判定された制裁事例の割合
出典:Hufbauer GC, Schott JJ, Elliott KA, Economic Sanctions Reconsidered, 1990; Pape RA, International Security, 1997;22(2):90–136.
データが大きくなると、答えの幅も広がる
その後の研究者は、より大きなデータセットを作りました。最も有名なのは、T. Clifton Morgan、Navin Bapat、Yoshiharu Kobayashiが運営する TIES(Threat and Imposition of Economic Sanctions)です。1945〜2005年の1,000件を超える事例を収録し、実際に科された制裁だけでなく、制裁の脅しも含んでいます。
TIES で制裁がどのくらい成功して見えるかは、成功の定義によって変わります。最も厳しい定義では、結果がわかっている事例の37.5%で成功し、最も緩い定義では56.3%です。これらの数字が高めになる理由の1つは、うまくいった脅しも数えているからです。制裁が科される前に譲歩した政府は、科された制裁のリストには決して登場しません。
1つの問いに4つの答え
成功とカウントされた制裁事例の割合
出典:Pape RA, 1997; Hufbauer GC et al, 1990; TIES データセット(Onder M, Economies, 2020 による要約)。TIES は科された制裁に加え、脅しも含む。
これらの研究を通して、いくつかのパターンが繰り返し現れます。制裁がうまくいきやすいのは、要求が控えめなとき、制裁を科す側と対象国が緊密な貿易相手であるとき、そして脅しだけで十分なときです。政権の転覆を狙う場合や、政府が自らの存続に不可欠と考えるものを手放させようとする場合には、ほとんど効きません。Binyam Demena と Peter van Bergeijk による2025年の成功要因のメタアナリシスは、こうした結論の多くが、研究で使うデータセットやモデルに大きく左右されることを示しています。
誰が代償を払うのか:健康への影響
制裁の人道的コストは、1990年代にイラク、ハイチ、旧ユーゴスラビアを通じて社会問題になりました。イラクの子どもの死者数をめぐる議論のある推計については別の記事で取り上げています。それ以降、研究者は多くの国にまたがってその影響を測ろうとしてきました。
Susan Hannah Allen と David Lektzian は2013年、Journal of Peace Research で、対象国の経済に大きな影響を与えた制裁は、大規模な武力紛争に匹敵する公衆衛生上の影響をもたらしたと報告しました。経済的な影響が小さい制裁では、測定できる健康への影響はありませんでした。つまり、害は経済的な打撃に連動しているのです。
Jerg Gutmann、Matthias Neuenkirch、Florian Neumeier は2021年、Journal of Development Studies で、1977〜2012年の後発開発途上国・新興工業国98か国を調べました。平均的な国連制裁は平均寿命を約1.2〜1.4年、米国の制裁は0.4〜0.5年縮めると推計しています。影響は男性より女性で大きく、制裁が長引くほど害が積み重なりました。
制裁下の平均寿命
平均的な制裁1回あたりの推定影響(98か国、1977〜2012年)
出典:Gutmann J, Neuenkirch M, Neumeier F, Journal of Development Studies, 2021;57(1):139–162。影響は男性より女性で大きい。
どの制裁が害をもたらすかで、研究は食い違う
より新しい研究は、この構図の一部をひっくり返しました。Francisco Rodríguez、Sílvio Rendón、Mark Weisbrot は2025年、The Lancet Global Health で、1971〜2021年の152か国の年齢別死亡率を、因果関係と相関を切り分けるための複数の手法で分析しました。最も強い影響が見られたのは単独国による制裁、経済制裁、米国の制裁で、国連制裁には統計的な影響の証拠が見つかりませんでした。影響は5歳未満の子どもで最も大きくなっていました。同誌に後に掲載された要約によれば、この推計は単独国による制裁に関連する死亡が年に56万人を超えることを意味します。
どちらの研究も慎重に行われていますが、重要な問いについて異なる方向を指しています。その理由を説明しているのが、Matteo Pinna Pintor、Marc Suhrcke、Christoph Hamelmann による2023年の BMJ Global Health のシステマティックレビューです。統合した27件の研究のうち、21件が制裁による一貫した悪影響を報告していました。しかし、ほぼすべてに重要な限界があり、準実験的なデザインを使ったものは1件だけでした。しかも、制裁を受けている国はほかの国と補正しにくい点で違っています。すでに紛争中だったり、独裁体制だったり、経済が低迷していたりすることが多いのです。レビューは、どの制裁がどれだけの害をもたらすのかについて、さらなる根拠が必要だと結論づけています。
Reza Majdzadeh は2026年、最も厳しい制裁を受けている国の1つであるイランについて、さらに注意を促しました。イランの平均寿命は、長い制裁期間を通じて伸び続けています。彼は、平均寿命は遅れて表れる大ざっぱな指標であり、害はまず医薬品不足、治療の遅れ、家計の貧困として表れ、全国平均が動くのはずっと後になりうると主張しています。
制裁と健康に関する国際比較研究
主な結果(発表順)
| 研究 | 対象国と期間 | 主な結果 |
|---|---|---|
| Allen・Lektzian(2013年) | 国際比較 | 経済的な影響が大きい場合のみ害がある |
| Gutmann ら(2021年) | 98か国、1977〜2012年 | 国連制裁は米国の制裁より多くの年数を奪う |
| Pinna Pintor ら(2023年) | 27件の研究のレビュー | 21件が害を確認。大半に重大な限界 |
| Rodríguez ら(2025年) | 152か国、1971〜2021年 | 米国・単独国の制裁が最も強く、国連制裁は影響なし |
出典:Allen SH, Lektzian DJ, J Peace Res, 2013; Gutmann J et al, J Dev Stud, 2021; Pinna Pintor M et al, BMJ Global Health, 2023; Rodríguez F et al, Lancet Glob Health, 2025.
例外規定があっても人々を守りきれない理由
イラクの経験も一因となり、国連と欧米諸国は1990年代後半から、経済全体ではなく特定の指導者、企業、部門に資産凍結や渡航禁止を科す「標的型」「スマート」制裁へと移行しました。意思決定者に圧力をかけつつ、それ以外の人々への影響を避けるという考え方です。しかし、標的型制裁のほうが効果的だという根拠は限られています。また、今では多くの制裁がそうであるように、中央銀行、石油輸出、国際決済へのアクセスを狙うと、標的型と包括型の境目はあいまいになります。
現代の制裁プログラムのほぼすべてが、食料、医薬品、人道支援を対象外としています。問題は、対象外の品目の取引にも、銀行、海運、保険、書類手続きが必要だということです。そして、そのつながりの中にいる企業はそれぞれ、ミスをするリスクに見合う商売かどうかを判断しなければなりません。
多くの企業は「見合わない」と判断します。研究者はこれを過剰遵守(オーバーコンプライアンス)、あるいはデリスキングと呼んでいます。銀行は制裁対象国に関係するあらゆる人への送金を拒み、供給業者は許可されている品目さえ売らなくなります。イランの経験についてのレビューでは、制度上は認められている医薬品が、支払い処理ができないために不足し、値上がりしたことが報告されています。同じことは、母国に送金する移民、制裁対象地域で活動する慈善団体、パスポートの国籍が「よくない」というだけの一般の人々にも起きています。
制裁は、対象国の政府をかえって強くすることもあります。Reed Wood は2008年、International Studies Quarterly で、1976〜2001年の制裁の後には国家による抑圧が強まっていたと報告しました。指導者が脅威に対抗して締めつけを強めたためです。Francisco Rodríguez が2023年に Journal of Economic Studies で31件の定量研究をレビューしたところ、30件が、所得や貧困から死亡率や人権に至るまでの指標に悪影響を報告していました。
定量研究が報告していること
対象国の生活状況への制裁の影響を測定した研究
出典:Rodríguez F, Journal of Economic Studies, 2023; Pinna Pintor M, Suhrcke M, Hamelmann C, BMJ Global Health, 2023.
最近の事例:ロシアとシリア
2022年2月のウクライナへの全面侵攻を受けてロシアに科された制裁は、主要な経済大国に対するものとしては過去最大です。中央銀行の外貨準備の大部分を凍結し、大手銀行を国際送金ネットワークのSWIFTから排除し、多くの輸出を禁止し、後には欧米の海運・保険を使って販売されるロシア産原油に価格上限を設けました。
経済的な影響は実際にありましたが、多くの予測より小さいものでした。ロシアの公式統計では、2022年は約1%のマイナス成長、2023年は3%を超えるプラス成長でした。軍事支出と、別ルートで販売された石油が支えになったためです。2024年の時点で、制裁は最大の目的である戦争の終結を実現していません。支持する側は、戦争のコストを引き上げ、ロシアの軍事サプライチェーンを時間をかけて弱めることも目的だったと主張しますが、こちらは測るのがより難しいものです。
シリアは逆の問いを示しています。2024年12月にアサド政権が崩壊した後、EUと米国は2025年、制裁は今や誰かに圧力をかけるより復興を妨げているとして、経済制裁の大半を解除する方向に動きました。研究者は、制裁が終わったときに健康や所得に何が起きるかを測れるようになります。これは制裁の開始時を調べるよりもまれで、ある意味ではより多くのことがわかる機会です。
個人にとっての意味
多くの読者にとって、制裁はほかの人に起きることでしょう。それでも制裁は、具体的な形で日常生活に入り込みます。一部の国の親族への送金が止められたり遅れたりすることがあります。旅行保険が制裁対象の渡航先を補償の対象外にしていることもあります。制裁対象者との売買は、知らずに行った場合でも、支払いや口座が凍結される原因になりえます。
公式の制裁リストは公開されており、各国政府は人道的な例外や許可についてのガイダンスを公表しています。家族に送金する人、慈善団体で働く人、制裁対象国とつながりのある小さな事業を営む人は、支払いが止まってからではなく、その前に、自分の銀行と国に適用されるルールを確認しておくとよいでしょう。
よくある質問
Q. 経済制裁は効くの?
控えめな目的なら、効くこともあります。成功率の推計は、データセットと成功の定義によって約4%から56%まで幅があります。
Q. 「制裁の成功率34%」とは?
Hufbauer、Schott、Elliott が、1990年までの115件のうち40件を少なくとも部分的に成功と判定した数字です。Pape は、その40件のうち持ちこたえるのは5件だけだと主張しました。
Q. 制裁は一般の人々に害を与える?
多くの研究では、経済に大きな影響を与える制裁は、特に子どもと女性の健康や生活水準を悪化させるとされています。
Q. 国連と米国の制裁、どちらが害が大きい?
研究によって食い違います。国連制裁のほうが影響が大きいとした研究がある一方、2025年の研究では米国や単独国による制裁で影響が最も強く、国連制裁では影響が見つかりませんでした。
Q. 医薬品は制裁の対象外?
たいていは対象外です。しかし銀行や供給業者が制裁対象国をまるごと避けることが多く、対象外の医薬品でも不足することがあります。
まとめ
- 最も有名な制裁の成功率34%は、Pape が同じ事例を再検証すると約4%に下がりました。
- 脅しも数に入れた大規模データセットでは、成功率は定義によって37.5〜56.3%になります。
- 経済に打撃を与える制裁は健康を損なう傾向があります。ある研究は、国連制裁で平均寿命が1.2〜1.4年縮むと推計しました。
- 国連と米国の制裁のどちらが害が大きいかは研究によって食い違い、多くの研究には設計上の大きな限界があります。
- 食料や医薬品の例外規定は、銀行や供給業者がリスクを避けるため、実際にはうまく機能しないことがよくあります。
この記事は、経済制裁について公表された研究をまとめたものです。特定の制裁プログラムやその背景にある紛争について立場をとるものではなく、法律や金融の助言でもありません。制裁対象国にお金や物を送る必要がある場合は、自国の公式ガイダンスを確認するか、取引銀行に相談してください。
さらに読むなら:最初に読むなら次の2本がおすすめです。1本目は、成功率34%の再検証で論争を巻き起こした Pape の論文 ‘Why Economic Sanctions Do Not Work’(International Security、1997年)。2本目は、制裁が低・中所得国の健康と保健システムに与える影響をまとめた Pinna Pintor らのシステマティックレビュー ‘The impact of economic sanctions on health and health systems in low-income and middle-income countries’(BMJ Global Health、2023年)です。
- The Economic Weapon(Nicholas Mulder著、2022年)。制裁が第一次世界大戦後に戦争の代わりとしてどう生み出され、民間人に何をもたらしたのかを、歴史家が描いた本です。
- Chokepoints(Edward Fishman著、2025年)。米国の元制裁担当官が、金融制裁がどのように作られ、イランやロシアに対して使われてきたかを解説した本です。
- Backfire(Agathe Demarais著、2022年)。米国の制裁が同盟国を傷つけ、対象国をほかの相手へと向かわせてしまう仕組みを、エコノミストが論じた本です。
参考文献
- Hufbauer GC, Schott JJ, Elliott KA. Economic Sanctions Reconsidered: History and Current Policy. 2nd ed. Institute for International Economics, 1990.
- Pape RA. Why economic sanctions do not work. International Security, 1997;22(2):90–136. doi:10.1162/isec.22.2.90.
- Pape RA. Why economic sanctions still do not work. International Security, 1998;23(1):66–77. doi:10.1162/isec.23.1.66.
- Morgan TC, Bapat N, Kobayashi Y. Threat and imposition of economic sanctions 1945–2005: updating the TIES dataset. Conflict Management and Peace Science, 2014;31(5):541–558. doi:10.1177/0738894213520379.
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