カビが問題なのではない。問題は水分だ
シリーズ:住まいの危険と室内環境
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この記事のポイント ・約9分で読めます
- 先進国では、推定10〜50%の住宅が湿気の影響を受けています。
- 湿気やカビのある建物と、呼吸器症状、呼吸器感染症、ぜんそくの悪化との関連には十分な根拠があります。
- 全身に及ぶ「有毒カビ」による病気という主張は、その根拠では裏付けられていません。
- WHOは安全基準値を設けていません。だから空気の検査をしても「もう大丈夫」とは言えないのです。
カビは、ほとんどの人が見当違いの相手と戦っている、珍しい家庭内の危険です。壁の黒いしみは問題そのものではありません。せきが症状であるのと同じように、カビも症状です。こすり落とすのは、せきだけを治療しているようなものです。
問題は水分です。カビは生き物で、育つには水分が必要です。そして、水分が戻ってくる限り、カビも戻ってきます。このテーマについての信頼できるガイドラインは、どれも言い方は違えど同じことを言っています。ところが、いちばん売れている商品はその逆を言っているのです。
どのくらい多く、何をもたらすのか
室内の湿気の影響を受けている住宅
欧州、北米、オーストラリア、インド、日本でのWHOの推計
出典:World Health Organization, WHO Guidelines for Indoor Air Quality: Dampness and Mould(2009年)
WHOのレビューは、湿気やカビのある建物と、呼吸器症状、呼吸器感染症、ぜんそくの悪化との関連について、十分な疫学的根拠があるとしています。さらに、アレルギー性鼻炎やぜんそくの発症との関連を示す根拠もあります。
根拠で確かめられていること、いないこと
このテーマには誇張がたくさんつきまとうので、分けて考える価値があります。
出典:WHO Guidelines for Indoor Air Quality: Dampness and Mould(2009年)、要約および健康リスク評価の章
2つ目の列は、健康だけでなく家計にも関わります。基準値が存在しない以上、誰が空気を検査しても「もう安全です」とは言えません。カビ検査サービスは、解釈の添えられていない数値を出すことがよくあります。正直な立場は、EPA(米国環境保護庁)がとっているものです。カビが見える、あるいは湿気のにおいがするなら、すでに答えは出ており、検査をしても次にやるべきことは何も変わりません。
探すべきはカビではなく水分
湿気が入り込む経路は数えるほどしかなく、それぞれまったく違う対処が必要です。どれに当てはまるかを見極めることが診断のすべてなのですが、ほとんどの人はこれを飛ばしてしまいます。
3種類の湿気と見分け方
壁に出る模様で、どれなのかがわかります。
| 種類 | 見た目の特徴 | 本当に効く対処 |
|---|---|---|
| 結露 | 外に面した冷たい壁、家具の裏、部屋の隅、窓まわりで最もひどい。季節性があり、冬に悪化し夏は軽くなる。 | 換気と暖房。住宅で最も多いタイプで、たいてい自分で直せるのはこれだけです。 |
| 水漏れ | 部屋の冷えやすい場所とは一致しない、輪郭のはっきりしたしみ。配管の近く、屋根の際、浴室の下に多い。 | 水漏れを見つけて修理する。ほかに効く方法はなく、乾かすだけでは長続きしません。 |
| 上昇湿気 | 1階の壁の低い位置に出る水位線のような跡で、塩の結晶を伴うことが多い。まれなのに、対策工事を売る業者によって過剰に診断されがち。 | 建物の専門家に。さらに、その対策を売っていない人のセカンドオピニオンも。 |
出典:WHO Guidelines for Indoor Air Quality: Dampness and Mould(2009年)、EPA(米国環境保護庁)のカビと湿気に関するガイダンス
結露はほとんどの家庭が抱えているタイプなので、理解しておく価値があります。暖かい空気は冷たい空気より多くの水分を含めます。家族が料理をし、シャワーを浴び、洗濯物を干し、ただ呼吸するだけでも、1日に何リットルもの水蒸気が家の中に放出されます。その空気が、窓、外壁、たんすの裏の壁など、いちばん冷たい面にぶつかり、そこに水分を落とすのです。
結露が起きる場所
暖かく湿った空気が、部屋でいちばん冷たい面にぶつかります。
出典:WHOの湿気に関する室内空気質ガイダンス(2009年)に記載された結露の仕組み
掃除の仕方と、自分でやるのをやめるべきライン
EPAのガイダンスは、すがすがしいほど明快です。硬い面のカビは洗剤と水でこすり落とし、完全に乾かす。塩素系漂白剤でも専用スプレーでもなく、洗剤と水、そして乾燥です。大事なのは乾かすことのほうだからです。
どこで線を引くか
自分で対処してよい範囲のEPAの目安
出典:U.S. Environmental Protection Agency, “Mold Cleanup in Your Home.”
効果がある対策(優先順)
どれも水分の話です。結局、テーマはそれに尽きます。
出典:WHO Guidelines for Indoor Air Quality: Dampness and Mould(2009年)、EPAのカビと湿気の対策ガイダンス
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まず測る、それから水分を取り除く。この順番で。
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カビ取りスプレー、「防カビ」塗料、家庭用カビ検査キットは紹介していません。スプレーは見えるしみを消しても水分は残るので、カビはまた戻ってきます。湿った壁に防カビ塗料を塗れば、その奥に湿気を閉じ込めます。そして検査キットが出す胞子数には、比べるべき健康上の基準値がありません。WHOがあえて基準値を設けなかったのは、まさに科学がそれを裏付けていないからです。見えている、あるいはにおうなら、答えはもう出ています。お金は水漏れの修理に使うほうが有効です。
よくある質問
Q. 黒カビは特に危険?
多くの人が思い浮かべているのは Stachybotrys chartarum という種で、根拠が示す以上に大きな不安を呼んできました。WHOの立場は、健康リスクは特定の種を特定することではなく、湿気と微生物の増殖全般に関係する、というものです。基準値を設けていないのもそのためです。実際の対応は、色が何であれ同じです。水分の出どころを見つけ、カビを取り除き、乾かすことです。
Q. 賃貸住宅で、大家さんには「住み方の問題」と言われます。どちらが正しい?
多くの場合、どちらも部分的には正しく、だから話が平行線になります。住む人の行動は実際に水分を生みますし、その水分が結露するかどうかを決めるのは実際に建物の構造です。役に立つのは記録を残すことです。日付入りの写真と、数週間分の湿度計の値を記録しましょう。湿度としみの位置を書面で残せば、「住み方」をめぐる言い合いが、建物についての証拠に変わります。湿気に関する住宅の基準は国によって違うので、お住まいの国の基準を調べておく価値があります。
Q. HEPA空気清浄機でカビは解決する?
すでに空気中にある胞子は捕らえられるので、症状を和らげることはあります。しかし、壁に生えたカビのコロニーにも、それに水分を与えている原因にも何の効果もありません。発生源が出し続けているのに空気清浄機を回すのと同じ、カテゴリーの取り違えです。原因の対処と並行して使うなら役に立ちますが、その代わりにはなりません。
Q. 冬に窓を開けるべき?もったいない気がします。
長くゆっくりより、短く一気にのほうが効果的です。窓を5〜10分大きく開ければ、壁や家具をあまり冷やさずに空気を入れ替えられます。一方、窓を1日じゅう少しだけ開けておくと、表面が冷えて結露が悪化します。熱は空気ではなく、部屋の壁や家具そのものに蓄えられているのです。
まとめ
- 先進国では、推定10〜50%の住宅が湿気の影響を受けています。
- 湿気やカビのある建物と、呼吸器症状、呼吸器感染症、ぜんそくの悪化との関連には十分な根拠があります。
- 全身に及ぶ「有毒カビ」による病気という主張は、その根拠では裏付けられていません。
- WHOは安全基準値を設けていません。だから空気の検査をしても「もう大丈夫」とは言えないのです。
- カビは症状、問題は水分です。結露、水漏れ、上昇湿気のどれなのかを見極めましょう。対処法はそれぞれ違います。
- EPAの目安:狭い範囲なら洗剤と水で掃除して乾かす。10平方フィート(約0.9㎡)を超えたら専門家に。
- 濡れたままになった吸水性の素材は、掃除ではなく交換します。
- まずはお金のかからない対策から:換気扇を長めに回す、洗濯物を室内に干さない、家具を冷たい壁から離す。
この記事は公表されたガイダンスをまとめたもので、医学的な助言ではありません。家族にぜんそくや呼吸器の病気がある人、免疫力が低下している人がいて、湿気が続いている場合は、建物の管理責任者だけでなく、主治医にも相談してください。
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参考文献
- World Health Organization. WHO Guidelines for Indoor Air Quality: Dampness and Mould. WHO Regional Office for Europe, 2009.
- U.S. Environmental Protection Agency. “Mold Cleanup in Your Home” and “A Brief Guide to Mold, Moisture and Your Home.”
