レスリングの皮膚感染症

レスリングの皮膚感染症、試合前の20秒の皮膚チェックが守るもの

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  • 1989年に米ミネソタ州で開かれた合宿では、高校生レスラー175人のうち60人が「ヘルペス・グラディアトルム」(格闘技ヘルペス)にかかり、最も重い階級のグループでは発症率が53%に達しました。
  • 米国の高校スポーツで、練習や試合を休む原因になった皮膚感染症の73.6%はレスリングで起きており、発生率はアメリカンフットボールの約12倍でした。
  • ヘルペスはほぼすべて肌と肌の接触でうつり、多くは頭・顔・首にできます。マットの役割は思われているより小さいものの、マットからMRSAが見つかったこともあります。
  • 試験では、週1回のフルコナゾールで白癬(たむし)が22%から6%に減り、毎日のバラシクロビルはヘルペスの再発を抑えました。

2025年12月、レスリングの国際統括団体である世界レスリング連合(UWW)が新しい皮膚の指針を公表しました。目を引く追加点は、公式計量の前に医務担当者の監督のもとで行う皮膚検査の義務化です。担当者は、数日前に署名された許可書を覆すこともできます。指針によれば、きちんとした検査にかかるのは15〜20秒。理由は昔から変わりません。レスリングでおなじみの感染症は肌から肌へ、しかも速く広がるからです。

1989年7月、米ミネソタ州の合宿に高校生レスラー175人が4週間参加しました。最終週までに、そのうち60人、つまり合宿の3分の1が、皮膚や目に単純ヘルペスウイルス1型の感染を起こしていました。最後の2日間は組み合う練習が中止されました。後の調査では、主に同じグループ同士で組んでいた最も重い階級の発症率は、最も軽い階級の2倍以上でした。

この記事では、レスリングで目立つ三つの感染症、ヘルペス・グラディアトルム、白癬、そしてMRSAを含む細菌感染症について、どう広がり、どこに集中し、何が効くと確かめられているか(皮膚チェック、復帰のルール、予防薬、衛生)を見ていきます。目的は誰かをマットから遠ざけることではありません。気をつけて組み合うことです。

マットの上で実際にうつるもの

ヘルペス・グラディアトルムの正体は、口唇ヘルペスの原因でもある単純ヘルペスウイルス1型が、すりむけた皮膚に入り込んだものです。New England Journal of Medicineに報告された1989年の合宿では、病変は73%で頭部に、42%で手足に、28%で胴体にありました。発熱、悪寒、のどの痛みもよく見られ、5人は目に炎症を起こしました。ウイルスは一生神経細胞にとどまるため、再発することがあります。

1989年ミネソタ合宿でのヘルペス発症率

体重別グループごとの、症例の定義に当てはまったレスラーの割合。練習は主に同じグループ内で行われていました。

最も重いグループ(59人中31人)53%
中間のグループ(57人中17人)30%
最も軽いグループ(55人中12人)22%
データのある全レスラー(171人中60人)35%

出典:CDC, MMWR 39(5):69(1990)、Belongia et al., NEJM(1991)。

白癬(たむし)は、正式には「白癬グラディアトルム」と呼ばれる真菌(カビ)の感染症で、主な原因はTrichophyton tonsuransという菌です。赤くかさついた輪ができ、頭皮に入り込むこともあります。1992〜93年には、アラスカ州のある高校チームで28人中21人に白癬とみられる病変があり、治療を始めた後も新しい発疹が出続けました。スウェーデンでは1993年にレスラーの間で流行があり、医師は来訪した米国チームが発端と見ています。

最も多いのは細菌感染症で、とびひ(伝染性膿痂疹)やおでき、膿瘍などがブドウ球菌やレンサ球菌で起こります。ブドウ球菌の中にはメチシリン耐性のもの(MRSA)があります。1993〜94年、バーモント州南部の高校チームでは32人中7人がMRSA陽性でした。2003年にはCDCが、階級が違い一度も組んだことのないインディアナ州の高校生レスラー2人がともにMRSAの皮膚感染を起こした例を報告し、共用の物品を介した感染が疑われました。2025年の症例報告では、オハイオ州北西部のある高校チームで2023年冬に4人がMRSAの治療を受けています。

いくつもの感染症が同時に来ることもよくあります。2014年1月、アリゾナ州マリコパ郡で24校のレスラー168人が参加した大会の後、郡の保健当局は皮膚病変37例を確認しました。とびひとヘルペスという二つの病原体が同時に広がっていたのです。ヘルペスの感染源は、大会の4日前に発疹が出ていたのに腕の病変を覆わないまま出場したレスラーでした。しかもこの大会では、外部の医療者が試合前に全員の皮膚を確認していました。

2014年アリゾナ州の大会で起きた集団感染の内訳

1つの高校大会の後に確定した37例の医師による診断。残りはその他または診断未確定。

とびひ(17例)46%
ヘルペス・グラディアトルム、HSV-1(11例)30%
白癬(2例)5%
MRSA(2例)5%

出典:Williams et al., CDC, MMWR 64(20)(2015)。

危険が集中するところ

皮膚感染症の統計ではレスリングが圧倒的です。2009〜10年度から2013〜14年度の米国の高校スポーツを対象にした全国調査では、練習や試合を休む原因になった皮膚感染症が474件、競技参加の延べ約2,100万回の中で数えられました。そのうち73.6%がレスリング、17.9%がアメリカンフットボールでした。細菌感染症が60.6%、白癬が28.4%を占め、最も多い部位は頭と顔でした。

米国の高校スポーツでの皮膚感染症

練習や試合を休む原因になった皮膚感染症の、競技参加10万回(選手1人が1回の練習または試合に出ること)あたりの件数。2009〜10年度から2013〜14年度。

レスリング28.56
アメリカンフットボール2.32
調査対象の全競技2.27

出典:Ashack et al., Journal of the American Academy of Dermatology(2016)、Healioの報道より。アスレティックトレーナーのいる学校のみ。

大学レスリングも似た状況です。NCAAの17プログラムのアスレティックトレーナーは、5シーズンで87人に112件の皮膚感染症を報告しました。競技参加1万回あたり14.23件で、22.3%は再発でした。その多くは35のチーム・シーズンのうち5つに集中しており、日常的に散発しているというより、集団感染に特有の偏り方です。ヘルペスの流行も同じで、1999年のミネソタ州の高校での流行では、19チームのレスラー61人とコーチ3人が42日間に感染しました。

点描の抽象画:低い地平線の中央で押し合う二つの密な点の球と、その接点を横切るように散らばる琥珀色がかったかすかな点。上には均一な淡い空。
二つの面が触れるところで、何かが渡っていく。

うつる経路は接触です。1999年の流行では、感染したレスラーの練習相手がヘルペスにかかる確率は32.7%で、たいていは4〜11日後に発症しました。ミネソタ州の夏合宿では、病変の71.9%が頭・顔・首にありました。組み手の基本姿勢「ロックアップ」で押し付け合う部分です。1988年の調査では、ヘルペスの病変がある相手と組んだ大学レスラーは、そうでない選手の約9倍の危険がありました。

マットの影響は、多くのコーチが思っているほど大きくありません。ミネソタ州の一連の研究を手がけた医師B.J.アンダーソンらによる2018年の総説は、ヘルペスはほぼすべて肌と肌の接触で広がり、マットなどの表面の寄与は小さいことが複数の研究で示されているとまとめています。白癬菌は表面で生き延びることがありますが、同じ総説はその経路も比較的まれとしています。清掃が欠かせない理由になっているのはMRSAで、オハイオ州の農村部の高校9校で環境検体を調べたところ、全校で表面からMRSAが見つかりました。

ネブラスカ州の高校生選手でのMRSA型皮膚感染症

医師の診断によるMRSAと矛盾しない皮膚・軟部組織感染症の、選手1万人あたりの推定件数。学校の運動部関係者への州全体の調査より。

レスリング、2008〜09年度60.8
レスリング、2010〜11年度28.1
レスリング、2011〜12年度43.3
アメフト、2008〜09年度20.9
アメフト、2010〜11年度11.3
アメフト、2011〜12年度16.6

出典:Buss, Connolly, Journal of School Nursing(2013)。検査室での集計ではなく、調査にもとづく推定値です。

保菌の多さがこの数字の背景にあります。2018年の総説が引用した推計では、高校生レスラーの0.9%が毎シーズン市中感染型MRSAにかかり、大学レスラーの最大76%が保菌しており、保菌している選手は細菌性の皮膚感染症を起こす可能性が約7倍でした。

効果が確かめられている対策

予防の柱は皮膚チェックです。練習や試合の前に訓練を受けた大人が全員の皮膚を見て、疑わしい病変があれば、医療者が皮膚状態の報告書に署名するまで出場を見合わせます。復帰のルールは具体的です。米国の高校の指針では、ヘルペスの初回発症なら少なくとも10日間の抗ウイルス薬治療が必要でその間は組めません。白癬は72時間の治療(頭皮なら14日間)、細菌感染症は72時間の抗菌薬治療と、膿が出ていないことが条件です。

点描の抽象画:平らな地平線に沿って等間隔に並ぶ点の柱の列と、細い縦線の後ろに少し離れて立つ一本の柱。その足もとには小さな琥珀色の四角がひとつ置かれている。
一本が退くことで、列は立ち続ける。

危険の高い選手には薬が役立ちます。1998〜99年シーズンの二重盲検試験では、フルコナゾール100ミリグラムを週1回飲んだレスラーの白癬の発生率は6%で、偽薬では22%でした。ヘルペスについては、再発を繰り返すレスラー42人を対象にしたミネソタ州の小規模な研究で、毎日のバラシクロビル服用中の再発は少数でした。初回発症から2年未満の選手では、500ミリグラムで21%、1グラムで8%が再発し、著者はこの群に最適な量はさらに研究が必要だとしています。

ミネソタ大学で開かれる28日間の合宿では、全員にバラシクロビルの毎日服用を勧めたところ、それ以前の年に比べて発症が87%減りました。2016年に発表された10年間の振り返りでは、再発が89.5%減ったと報告されています。ただし、これらはランダム化試験ではなく観察による比較です。隔離も効きます。2007年のミネソタ州の流行では、試合を8日間止めることで、接触した選手の90%以上で感染の広がりを抑えられました。

レスラーでの予防薬

調査期間中に感染したレスラーの割合。バラシクロビルの行は、ヘルペスの初回発症から2年未満の選手。

白癬、週1回の偽薬22%
白癬、試験に参加せず18%
白癬、フルコナゾール週1回100mg6%
ヘルペス再発、バラシクロビル1日500mg(14人中3人)21%
ヘルペス再発、バラシクロビル1日1g(25人中2人)8%

出典:Kohl et al.(2000)、ランダム化・偽薬対照試験。Anderson, Clinical Journal of Sport Medicine(1999)、一部非盲検の小規模研究。

いちばん目につく習慣ほど、根拠は弱いものです。2018年の総説は、抗ブドウ球菌の清掃用品がMRSA感染の発生率を変えるという根拠はほとんどないとしています。ただし、清掃と早期治療の手順を文書で定めることは役立つかもしれません。皮膚チェックが義務化されたミネソタ州のレスラー510人の研究では、1シーズンの白癬は4.3%で、チェック導入前に報告された24%を大きく下回りました。もっとも著者は、24%という数字はおそらく集団感染の最中に測られたものだと注意しています。

レスリングをやめることが答えではない理由

これらの感染症の多くは治療でき、重い合併症はまれです。目の近くのヘルペスはすぐに受診が必要で、MRSAで入院することもあります。2000年の大学アメフトの集団感染では、感染した10人のうち7人が入院しました。それでも、ヘルペス・グラディアトルムの原因ウイルスはレスラーだけのものではありません。ある合宿で検査を受けた高校生レスラーの29.8%はすでに抗体を持っており、2018年の総説は、同じ地域に住むレスラーとそうでない人で抗体陽性の割合に差はないと報告しています。

点描の抽象画:穏やかな地平線に置かれた、密な青い点でできた広く浅い器。その縁をまっすぐな線が横切り、そばの何もない地面に小さな琥珀色の四角がひとつ立っている。
洗って、確かめて、また線の上へ。

確率を変えるのは、お金のかからない習慣です。新しいできものは、すぐに申告しましょう。試合に出るために病変を隠して覆うのはやめましょう。シャワーは家に帰ってからではなく、練習の直後に石けんで浴びること。2015年のNFHSの記事は、高校生レスラーの約8%が家に帰るまでシャワーを浴びないと推計しています。タオルやかみそり、石けんは共有せず、練習着は毎回洗いましょう。

ヘルペスの発症歴があるレスラーは、シーズン開始の約5日前から飲み始める抗ウイルス薬の予防投与について医師に相談できます。白癬を繰り返す人は、抗真菌薬の予防投与を相談できます。コーチは皮膚チェックをウォーミングアップの一部として扱い、マット清掃の手順を守り、複数の選手が感染したら地域の保健当局に連絡しましょう。レスリングのほかの危険については、レスリングのけがと「1998年のルール」についての記事をご覧ください。

行動の手順

役に立つ時期の順に並べている。各項目に根拠の強さを示した:データあり 公的機関の推奨 未検証

起きる前に

  • 練習と試合のたびに皮膚チェックを行う。訓練を受けた大人が全員を確認し、気になる発疹がある選手は医師の許可が出るまで休ませる。 データあり 参考文献を参照
  • 以前にヘルペスが出たことがあるなら、シーズン開始の約5日前から飲む抗ウイルス薬について医師に相談する。ある合宿では毎日のバラシクロビルを勧めた後、発症が87%減った。 データあり 参考文献を参照
  • 白癬(たむし)を繰り返すなら、予防の抗真菌薬について医師に相談する。試験では週1回のフルコナゾールで22%から6%に減った。 未検証 参考文献を参照

起きたら

  • 新しいただれ、発疹、水ぶくれに気づいたら、特に頭・顔・首なら、すぐに申し出る。 公的機関の推奨 参考文献を参照
  • 指導者は、複数の選手に広がったら接触練習を止め、地域の保健所に連絡する。2007年のミネソタでは8日間の中断で、接触した選手の90%以上で感染拡大を防げた。 未検証 参考文献を参照

その後

  • 練習後は家に帰ってからではなく、すぐに石けんでシャワーを浴びる。 公的機関の推奨 参考文献を参照
  • 練習着は毎回洗い、マットは決まった手順で清掃する。 公的機関の推奨 参考文献を参照
  • 復帰の基準を守る。米国の高校の指針では、初めてのヘルペスは抗ウイルス薬で少なくとも10日、白癬は治療72時間(頭皮なら14日)が必要。 データあり 参考文献を参照

してはいけないこと

  • 活動中のヘルペスや膿の出る傷を覆って試合に出ない。 公的機関の推奨 参考文献を参照
  • タオル、カミソリ、石けんを共用しない。 公的機関の推奨 参考文献を参照

医学的な助言ではありません。目の近くのただれはすぐに受診が必要です。気になる発疹があれば、接触練習に戻る前に医師の診察を受けてください。

よくある質問

レスリングのマットからヘルペスや白癬がうつりますか?

ありえますが、まれです。総説は、ヘルペスはほぼすべて肌と肌の接触で広がり、白癬が表面からうつることもまれだとしています。マットからMRSAが見つかったこともあるので、清掃はやはり大切です。

ヘルペスにかかったレスラーはどのくらい休む必要がありますか?

米国の高校の指針では、初回発症なら少なくとも10日間の抗ウイルス薬治療(発熱やリンパ節の腫れがあればもっと長く)、再発なら120時間です。大学のルールは少し異なります。

病変を覆えば組んでも大丈夫ですか?

たいていは大丈夫ではありません。大学のルールでは、72時間治療した白癬は覆って出場できますが、活動中のヘルペスや膿の出る細菌感染症は、覆っても出場できません。

レスラーは全員、抗ウイルス薬を飲むべきですか?

いいえ。予防投与は一般に、ヘルペス・グラディアトルムの発症歴があるレスラーで検討されるもので、医師と本人が決めることです。

ヘルペス・グラディアトルムは性器ヘルペスと同じですか?

同じ仲間のウイルスによるものですが、レスリングではほぼすべて、2018年の総説がまとめた研究では94〜97%が、口唇ヘルペスの原因である単純ヘルペスウイルス1型で、ふつうの肌の接触でうつります。

まとめ

  • 1989年に米ミネソタ州で開かれた合宿では、高校生レスラー175人のうち60人が「ヘルペス・グラディアトルム」(格闘技ヘルペス)にかかり、最も重い階級のグループでは発症率が53%に達しました。
  • 米国の高校スポーツで、練習や試合を休む原因になった皮膚感染症の73.6%はレスリングで起きており、発生率はアメリカンフットボールの約12倍でした。
  • ヘルペスはほぼすべて肌と肌の接触でうつり、多くは頭・顔・首にできます。マットの役割は思われているより小さいものの、マットからMRSAが見つかったこともあります。
  • 試験では、週1回のフルコナゾールで白癬(たむし)が22%から6%に減り、毎日のバラシクロビルはヘルペスの再発を抑えました。
  • 練習のたびの皮膚チェック、練習直後のシャワー、タオルを共有しないこと、そして正直な申告。これらがレスラーをマットに立たせ続けます。

この記事は公表された研究の要約であり、医学的な助言ではありません。新しいできもの、発疹、おできがある人、とくに目の近くにある人や熱がある人は、再び組む前に医師の診察を受けてください。予防薬を考えている選手は、かかりつけの医師に相談してください。

さらに読む:接触スポーツの皮膚感染症の総説は Peterson, Nash, Anderson, Sports Health(2018)。1989年の合宿は CDC, MMWR 39(5):69(1990)。United World Wrestling「レスラーの皮膚状態に関する指針」(2025)。

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