暑さの中のランニングと熱射病

暑さの中のランニングと熱射病、冷水の槽で274人全員が助かった

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  • 労作性熱射病は、深部体温がおよそ40℃を超え、脳の働きに異常が出た状態です。いちばんの手がかりは錯乱で、汗をかいたままのこともあります。
  • 短く速いレースと季節はじめの暑さに集中します。11.3キロのファルマス・ロードレースでは完走者1万人あたり平均21件、ボストン・マラソンでは出走者1万人あたり3.7件でした。
  • 「まず冷やし、運ぶのはその後」。冷水への全身浸漬で、ファルマスの274人、バーモント・シティ・マラソンの26人は全員が助かりました。
  • 暑さへの順化の大部分は最初の4日間で進みます。暑さの旗に合わせてペースを落とし、決めた量ではなく、のどの渇きに合わせて飲むことも役立ちます。

2026年4月19日、韓国・坡州(パジュ)で開かれた「DMZ平和マラソン」のコース周辺では、気温が30℃近くまで上がりました。約30キロ離れたソウルでは29.4℃を記録し、1907年の観測開始以来、4月中旬としては最も高い値でした。12人のランナーがけいれんやめまい、過呼吸などで体調を崩し、8人が病院に運ばれ、うち1人は集中治療を受けました。消防当局は、ランナーたちが暑さの中で無理を続けたようだと説明しています。

労作性熱射病は、運動中の体が熱を逃がすより速く熱を作り続け、脳が正常に働かなくなる状態です。スポーツの救急の中では珍しく、ほぼ確実に効く治療があります。米マサチューセッツ州のファルマス・ロードレースでは、18年間に熱射病になった274人のランナーがゴールで冷水の槽に入れられ、全員が助かりました。

この記事では、熱射病がランナーの体に何をするのか、なぜ短く速いレースや季節はじめの暑さに集中するのか、そして冷水浸漬から暑さの旗、暑熱順化まで、効果が確かめられている対策を見ていきます。結論は、暑いときに走るのをやめることではありません。注意して走り、いざというときの動き方を知っておくことです。

熱中症(労作性熱射病)はランナーの体に何をするのか

米国スポーツ医学会(ACSM)は、労作性熱射病を「直腸温が40℃を超え、臓器の機能不全、とくに脳の異常を伴う状態」と定義しています。ある限界を超えると細胞が傷み始めます。ACSMは、見たところ健康な選手でも、比較的涼しい天候でも起こりうると強調しています。

いちばんの手がかりは行動の変化です。激しく走っていた人に錯乱、ちぐはぐな受け答え、攻撃的な態度、ふらつき、転倒が見られたら、別の原因がはっきりするまで熱射病として扱います。皮膚が熱く乾いているとは限りません。2回倒れたランナーの症例報告では、錯乱して話がかみ合わず、それでも汗をかいていました。2025年にはメイン州の大会の看護師が、患者が暴れることもあると話しています。

ランナーの体温はどこまで上がるか

深部体温(℃)。特記がない限り直腸温。熱射病は体温と脳の異常をあわせて診断します。

到着時の最高値、札幌2021年五輪のロード種目42.6℃
ファルマスの熱射病患者、到着時の平均41.4℃
五輪の医療チームが使った熱射病の基準40.5℃
蒸し暑い中のハーフマラソン完走者、最高値の平均(38.5〜40.7)39.8℃
倒れてから30分以内に下げる目標39℃

出典:Sugawara et al., Frontiers in Sports and Active Living(2022)、DeMartini et al., Medicine & Science in Sports & Exercise(2015)、Lee et al., European Journal of Applied Physiology(2010、カプセル型センサー)、Hosokawa et al., British Journal of Sports Medicine(2020)。

体温だけでは診断できません。シンガポールで、鍛えたボランティア25人が気温26.4℃、湿度81%の中でハーフマラソンを走った研究では、10人が40℃以上に達し、体温を最もよく予測したのは走る速さでした。だから医療チームは、非常に高い深部体温と、脳がきちんと働かなくなっていることの組み合わせを見ます。

危険が集中する場所と時期

点描の抽象画:低い地平線の近くに立つ、光る点が密に集まった短い柱。その後ろには、小さな点の球が穏やかに一列に遠ざかっていく。空はまばらで均一な点。
短い道は、長い道より熱く燃える。

意外なことに、最も危ないのはマラソンではありません。ファルマス・ロードレースは11.3キロしかありませんが、8月に開かれ、ランナーは最初から最後まで速いペースを保てます。研究者は、ここでの熱射病はほかのレースの約10倍多いと報告しました。18年間に治療した熱中症393件のうち274件、70%が熱射病で、完走者1,000人あたり平均2.13件でした。

ペースは天候と同じくらい重要でした。2014〜2018年のファルマスで熱射病になった100人の平均ペースは1キロ5分35秒で、ほかの完走者53,369人の6分18秒より速く、年齢、性別、実力、気象条件を考慮しても差は残りました。倒れた人たちは、暑さの旗が黄から赤に変わってもペースを落としていませんでした。ボストンでは、30歳未満であることと最初の2つのウェーブでスタートすることが関連していました。

4つのロードレースの熱射病

ランナー1万人あたりの件数。ファルマスとバーモント・シティは報告どおり完走者または出走者あたり、ボストンは出走者あたり。ファルマスは11.3キロ、ほかはマラソン。

ファルマス、最も多かった2003年(37件)45.9
ファルマス、2015年(38件)35.5
ファルマス、18年間の平均21.3
バーモント・シティ・マラソン(春)、2012〜2023年12
ファルマス、最も少なかった2004年6.1
ボストン・マラソン、2015〜2019年3.7

出典:DeMartini et al., Journal of Athletic Training 49(4):478(2014)、Grundstein et al., Frontiers in Sports and Active Living(2019)年別表、Brillhart et al., Clinical Journal of Sport Medicine(2025)、Breslow et al., Medicine & Science in Sports & Exercise(2021)。

もうひとつの集中は時期です。体が慣れる前に来る暑さは、夏の安定した暑さより危険です。韓国の4月の暑い日や、バーモントの5月下旬のマラソンで救護テントがいっぱいになるのはそのためです。米フロリダ州の高校13校では、アメリカンフットボールの熱中症の94%がシーズン最初の19回の練習で起きていました。米軍では2025年、入隊直後の訓練中の新兵の熱射病の発生率が、ほかの下士官・兵の約3.5倍でした。

熱中症が集中する時期と人

観察研究による相対的な発生率。1より大きければ比較グループより発生率が高いことを示します。

最初の19回の練習とそれ以降、フロリダの高校(熱中症全体)23.7倍
新兵とほかの下士官・兵、米軍の熱射病(2025年)3.5倍
比較グループ1倍
女性と男性、ファルマスの熱射病(0.58〜0.89)0.71倍

出典:Tripp et al., Orthopaedic Journal of Sports Medicine(2021)、米軍保健監視部門 MSMR(2026年5月)、Belval et al., Journal of Athletic Training 55(12):1224(2020)。

学会の声明は、ほかの危険因子として、暑さに慣れていないこと、脱水、最近の体調不良、一部の薬の服用を挙げています。ただし2020年のシステマティックレビューは、これに注意を促しました。「よく知られた」因子のどれか1つが熱中症に直接つながることを示す一次研究は十分ではなく、いくつもの因子が重なったときに、ときには厳しく見えない天候でも起きる傾向があったというのです。若くて体力があっても守られるわけではありません。バーモントの患者の平均年齢は33歳で、出走者全体より若かったのです。

効果が確かめられている対策

点描の抽象画:地平線に置かれた、冷たい点でできた穏やかな長方形の池。そこに明るい点の球が半分沈み、池のそばには小さな琥珀色の四角が待ち、まっすぐな点線が画面の端へ続いている。
まず水へ、それから道へ。

原則は「まず冷やし、運ぶのはその後」です。生存と後遺症は、体が危険なほど熱い状態がどれだけ続くかで決まるため、専門家の合意では倒れてから30分以内に39℃まで下げることを求めています。熱射病は、救急車より現場での治療が優先される珍しい緊急事態です。ファルマスの274人は平均41.4℃で到着し、冷水の中で1分あたり0.22℃ずつ下がり、およそ11分で安全な体温に達しました。

水は空気よりはるかに速く熱を奪うので、浸漬がほかの方法にまさります。バーモント・シティ・マラソンでは熱射病の26人全員が冷水に浸かり、全員が助かりました。槽に入っていた時間は平均16分で、2016年に手順を改めてからは、病院への搬送が必要だったのは23%だけでした。槽がない場合でも、冷水をかけ続けて氷でマッサージする方法は、マリーン・コー・マラソンで、浸漬より遅いものの効果を上げました。

冷やし方による冷却の速さ

深部体温が1分あたり何℃下がったかの平均。特記がない限り熱射病の患者。速さは水温や開始時の体温で変わります。

2℃の循環氷水、高体温のボランティア0.35
冷水槽、ファルマス(274人)0.22
冷水槽、バーモント・シティ・マラソン(26人)0.17
冷水かけと氷マッサージ、マリーン・コー・マラソン(9人)0.13
氷水浴、札幌2021年五輪の種目(5人)0.11
安静のみ、実験室研究の統合0.06

出典:Hosokawa et al., BJSM(2020、Proulx et al.を引用)、DeMartini et al.(2015)、Brillhart et al.(2025)、McDermott et al., Aviation, Space, and Environmental Medicine(2009)、Sugawara et al.(2022)、Davis et al., MSSE 学会抄録(2015)。

見つけるには正しい体温計が欠かせません。暑さで汗をかいているランナーでは体の外からの測定は当てにならないため、大会の医療チームは直腸温を使います。現場の実践は根拠に追いついていないこともあります。2019年に日本の研究者は、直腸温測定と全身の冷水浸漬が、日本ではスポーツ医学や軍事医学以外ではなかなか受け入れられていないと指摘しました。その後、東京五輪のロード種目ではゴールに氷水浴が用意されました。

予防は天候の把握から始まります。大会医療では、気温、湿度、日射、風を合わせた湿球黒球温度(WBGT)を使います。国際レース医学会(IIRM)の方式では、旗は18℃で黄、23℃で赤、28℃を超えると黒になり、1996年のACSMの指針は約28℃を中止の目安としていました。ミネソタ州のツインシティーズ・マラソンの分析は、こうした基準は暑さに慣れていない一般ランナーには甘すぎると論じています。

レースの暑さの基準

スタート時のWBGT(℃)。旗は国際レース医学会の区分、その他の線はマラソンのデータによる。

黒旗(極めて危険、これを超える)、ACSM 1996年の中止目安28℃
赤旗(危険が高い)の下限23℃
シカゴ2007年のスタート時:途中で中止、185人が病院へ22.2℃
ツインシティーズ・マラソンで提案されたスタート見送りの基準20.5℃
黄旗(中程度の危険)の下限18℃
ツインシティーズ:これ以下なら熱射病は1レース0〜1件13℃

出典:Grundstein et al.(2019)旗の区分、Roberts, Medicine & Science in Sports & Exercise 42(2):226(2010、ACSM 1996年とシカゴ2007年の数字を含む)。

ツインシティーズ・マラソンでは、スタート時のWBGTが約13℃なら熱射病は1レースあたり0〜1件でしたが、約22℃では11〜12件に増えました。そこで医療責任者は、20.5℃を超えたら一般ランナーをスタートさせないよう提案しました。2007年のシカゴでは、スタート時22.2℃でレースが途中で中止され、185人が病院に運ばれました。それでも、2015〜2019年のボストンの熱射病はすべて、WBGTの平均が17〜20℃にすぎない日に起きています。天候で説明できるのは危険の一部だけです。

暑熱順化はランナー自身の守りです。米陸軍の総説によると、毎日の暑さへの適応、たとえば深部体温の低下や汗のかき方の改善は、大部分が最初の4日間で現れ、約3週間で完了します。米国の高校フットボールでは、全国的な夏季順化の指針に完全に従った州の選手は、8月の気温を調整したうえで熱中症になる割合が55%低かったと、12年分のデータを分析した研究者が発表しています。

反対側には水の落とし穴があります。汗で失う量をはるかに超えて飲むと血液中のナトリウムが薄まり(低ナトリウム血症)、これも錯乱や転倒を起こします。治療の前に体温を測る理由のひとつです。タスマニアの85キロの山岳レースでは、のどの渇きに従って飲んだ人は、決めた計画どおり飲んだ人より飲む量が少なく、ゴール時のナトリウム値が高めでした。渇きに合わせて飲むよう事前に指導したスペインのトレイルレースとアイアンマンでは、完走者130人のうち低ナトリウム血症で終えたのは2人だけでした。

走るのをやめることが答えではない理由

点描の抽象画:夜明けの低い地平線に沿って等間隔に並び、ゆっくり進む点の球の長い列。列のすぐ上には淡い太陽の円盤があり、少し先には小さな琥珀色の四角がほどよい距離をおいて立っている。
朝の光の中を、同じ歩幅で。

ランニングは心臓にも心にも骨にもよく、ランニングのけがについての記事で紹介したように、長く心配されてきたひざへの害はデータには表れませんでした。熱射病は絶対数で見ればまれです。ファルマスでさえ平均的な年に完走者1,000人あたり約2人、ボストンでは1万人あたり4人未満です。すぐに気づいて冷やせば、生存率はほぼ100%です。

習慣はシンプルです。暑いレースの前の数日間で、少しずつ暑さに体を慣らしましょう。朝早く走り、記録を追うより旗に合わせてペースを落とします。発熱や胃腸炎の後は出走を見送ります。のどの渇きに合わせて飲みます。錯乱が危険のサインだと知っている人と一緒に走り、ゴールに冷水槽のある大会を選びましょう。主催者も変わりつつあります。2026年3月、暑さが予報されたロサンゼルス・マラソンは、18マイル地点でやめても完走メダルを受け取れるようにし、1,000人近くがこれを選びました。

よくある質問

走っている最中の熱射病の最初のサインは何ですか?

いちばんの手がかりは錯乱です。ちぐはぐな受け答え、攻撃的な態度、ふらつき、転倒などです。汗をかいたままのこともあります。暑い中での激しい運動中に様子がおかしくなった人は、すぐに運動をやめさせて冷やしてください。

暑い中でランナーが倒れたら、どうすればいいですか?

救急車を呼び、すぐに冷やし始めます。できれば首から下を冷水や氷水に浸け、無理なら助けが来るまで冷水と氷をかけ続けます。救急車の到着を待ってから冷やすのではありません。

それほど暑くなくても熱射病になりますか?

なります。激しく走ると体は大量の熱を作り、穏やかな天候でも熱射病は記録されています。2015〜2019年のボストンの症例もすべてそうでした。

暑さに慣れるにはどれくらいかかりますか?

米陸軍の研究によると、毎日暑さにさらされると適応の大部分は最初の4日間で進み、約3週間でほぼ完了します。少しずつ慣らしていきましょう。

まとめ

  • 労作性熱射病は、深部体温がおよそ40℃を超え、脳の働きに異常が出た状態です。いちばんの手がかりは錯乱で、汗をかいたままのこともあります。
  • 短く速いレースと季節はじめの暑さに集中します。11.3キロのファルマス・ロードレースでは完走者1万人あたり平均21件、ボストン・マラソンでは出走者1万人あたり3.7件でした。
  • 「まず冷やし、運ぶのはその後」。冷水への全身浸漬で、ファルマスの274人、バーモント・シティ・マラソンの26人は全員が助かりました。
  • 暑さへの順化の大部分は最初の4日間で進みます。暑さの旗に合わせてペースを落とし、決めた量ではなく、のどの渇きに合わせて飲むことも役立ちます。
  • 暑い時期に走る価値は変わりません。体を慣らし、朝早く走り、体調が悪いときは出走をやめ、ゴールに冷水槽のある大会を選びましょう。

この記事は公表された研究と報道の要約であり、医学的な助言ではありません。熱射病は命に関わる緊急事態です。暑い中でランナーが錯乱したり倒れたりしたら、救急車を呼び、すぐに冷やし始めてください。できれば冷水に浸けるのが最善です。心臓病がある方、薬を常用している方、熱中症になったことがある方は、暑い時期にトレーニングやレースをする前に、医師や理学療法士に相談してください。

さらに読む:冷水で治療した274人とその生存は DeMartini et al., Medicine & Science in Sports & Exercise(2015)。マラソンがスタート見送りの気温をどう決めたかは Roberts, Medicine & Science in Sports & Exercise(2010)。見分け方と治療についてのACSMの合意声明は Roberts et al., Current Sports Medicine Reports(2021)。

おすすめの3冊
  • The Heat Will Kill You First、Jeff Goodell(2023)。ジャーナリストが、極端な暑さが体と社会に何をするかを描いた本。熱射病の章は生々しく、スポーツより広い視野で書かれています。論調はやや警告的です。
  • Sweat: A History of Exercise、Bill Hayes(2022)。古代の体育場から現代のランニングまで、運動の文化史をたどる本。実用的な助言より、背景を知るための一冊です。
  • The Art of Uncertainty、David Spiegelhalter(2024)。ケンブリッジ大学の統計学者が、偶然とまれな出来事について語ります。「1万人あたり何件」という数字を落ち着いて読むのに役立ちます。

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