乗馬のケガ:ヘルメットと、地上で受ける蹴り

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  • 米国の乗馬のケガの約3分の2は騎乗中に起こり、その多くは落馬です。地上でのケガでは、馬に蹴られるのが最大の原因です。
  • 「乗馬はバイクより危険」という有名な説の根拠は、1985年の書籍の1章にすぎません。
  • 救急受診は全体では減りましたが、60歳以上では140%増えています。
  • ヘルメットは脳損傷の減少と一貫して関連しています。エアベストには、ケガを防ぐ効果が確認されていません。

2024年6月、当時73歳だったアン王女が、自身の領地での出来事のあと、脳しんとうと軽傷でブリストルの病院に5泊入院しました。このとき王女は馬に乗っていませんでした。医師団は、ケガは馬の頭か脚がぶつかったことによるものと考えられると説明しています。騎手にはよく知られていても、馬に乗らない人はまず考えないリスクが、珍しく公の場で示された例でした。馬は、そばに立っているだけの人にもケガをさせることがあるのです。

1990〜2017年の米国の救急外来を調べた研究では、騎乗していないときにケガをした人のもっとも多い原因は蹴られることで、42.1%を占めました。騎乗中にケガをした人では、落馬または振り落とされることが73.9%でした。この2つのメカニズム、つまり落馬と蹴りで、乗馬のケガのほとんどが説明できます。どちらも騎手が変えられる習慣に左右されます。そして、乗馬の危険性についてもっともよく知られた説のひとつは、ほとんど根拠がないことがわかります。

この記事はシリーズの形式に沿って、騎手が実際にどこをケガするのか、リスクがどこに集中しているのか、それを減らすために何が測定されてきたのか、そしてなぜ「馬に乗らない」が答えではないのかを見ていきます。

実際に多いケガ

全国規模でもっとも信頼できる推計は、米国消費者製品安全委員会(CPSC)の病院サンプルによるものです。2001〜2003年には、推計で年間10万2,904人が、馬に関連する致死的でないケガで救急外来を受診していました。人口10万人あたり35.7人です。3分の2にあたる66.1%は騎乗中のケガでした。部位別では頭頸部が23.2%、下肢が22.2%、上肢が21.5%。11%以上が入院または転院となり、外傷性脳損傷は年間約1万1,500件と推計されています。

騎手がケガをする原因

米国の救急外来でのおもなケガのメカニズム(1990〜2017年、騎乗中かどうか別)。

騎乗中:落馬・振り落とし73.9%
非騎乗時:蹴られた42.1%
全ケガに占める騎乗中の割合(2001〜03年)66.1%
入院率:騎乗中と非騎乗時の比2.10倍

出典:Acton et al., American Journal of Emergency Medicine 38(6):1062–1068(2020年);Thomas et al., British Journal of Sports Medicine 40(7) (2006年)

もっと長い期間で見ると、数字は変化しています。1990〜2017年に、米国の救急外来では馬に関連する受診が推計184万件、年間約6万5,600件ありました。2000〜2017年に受診は46%減りましたが、60歳以上では年間の受診率が139.6%上昇しました。また、1990〜2009年に脳しんとうと閉鎖性頭部外傷の診断は337%増えています。

外傷センターに運ばれるケガは、より重く、傾向も違います。2007〜2016年の米国の全国外傷データ(患者2万4,791人)では、もっとも多くケガをした部位は胸部で、320人の死亡のうち4分の3は頭頸部のケガによるものでした。ドイツのある外傷センターでは、ケガの67.7%が落馬、16.5%が蹴りによるものでした。もっとも多い部位は頭部で、頭部にケガがあると入院のオッズが約6倍になりました。オーストラリアでは、2024〜25年に馬術関連の活動で約2,100件の入院があり、その半分以上が骨折で、年齢層では15〜19歳がもっとも多くなっていました。

リスクが集中する場面

乗馬は、時間あたりで見るとバイクより危険だとよく言われます。この説は出どころをたどってみる価値があります。1990年のCDC(米国疾病予防管理センター)の報告書には、騎乗1時間あたりの重傷率は、バイク乗りやカーレーサーよりも高いと推計されている、と書かれています。その根拠は、1985年の書籍の1章だけでした。40年にわたって繰り返されてきた数字の出どころはこの1章で、それを検証するような現代のコホート研究は存在しません。実際に時間あたりで測定した数少ない例として、1990年代の米国の若い騎手のデータがあり、騎乗1,000時間あたり0.6件のケガでした。2016年の分析は、障害を飛ぶ競技ではそもそも時間を分母にするのが間違いだと論じています。リスクはジャンプそのものにあるからです。

シュールな作風の点描画。点でできた大きな球体が細く高い柱の上に載っていて、その影がはるか下の暗い地平線に落ちている。
乗っている高さが、そのまま落ちる高さ。

もっとはっきりしているリスク要因もあります。ほぼすべての研究で、もっともケガが多いのは若い女性です。これは、乗馬をする人の構成を反映している面もあります。疫学論文71本のレビューでは、60本が若い女性をもっとも影響を受けるグループとしており、メカニズムを調べた論文の97%で、落馬がもっとも多い原因でした。経験は、思われているほどケガを防いでくれません。2011〜2017年の米国ポニークラブの事故データでは、経験の浅い会員ほど事故が多かったものの、そのうち重大なものの割合は、どの認定レベルでも9.3〜14.3%と同じくらいでした。長年乗っている騎手は落馬の回数こそ少ないものの、落ちたときの衝撃は変わらないのです。

競技では、危険はジャンプに集中しています。2008〜2018年の国際的な総合馬術では、クロスカントリーに出走した19万429頭のうち5.2%で転倒・落馬があり、その89%は障害で起きていました。コーナー障害では、一般的なスクエアオクサーに比べて転倒・落馬のオッズが2.44倍、水濠のついたブラッシュ障害では2.02倍でした。もっとも恐れられているのは、馬が障害の上で前転し、騎手の上に落ちることもある「回転転倒」です。英国総合馬術協会(British Eventing)の2023年シーズンでは、回転転倒は転倒・落馬の2%でした。落馬した騎手の89%は無傷で、死亡者はいませんでした。

総合馬術の転倒・落馬はどこで起きるか

国際クロスカントリー競技での障害の種類別の転倒・落馬のオッズ(スクエアオクサーとの比較、2008〜2018年)。

コーナー障害2.44倍
水濠付きブラッシュ2.02倍
スクエアオクサー(基準)1.00
転倒・落馬で終わった出走5.2%
障害で起きた転倒・落馬89%

出典:Bennet, Cameron-Whytock and Parkin, Equine Veterinary Journal 55(3):463–473(2023年)

効果が確認されている対策

もっとも一貫したエビデンスがあるのはヘルメットです。ただし、そのほとんどは試験によるものではありません。米国のある小児外傷センターでは、ケガをした子どもの騎手のうち、ヘルメットの着用が記録されていたのは19.7%だけでした。着用していた子は重症度が低く、外傷性脳損傷も少なく(32.4%対55.3%)、集中治療室への入院も少なくなっていました。ヘルメットを着けていないことは、それ単独で脳損傷を予測する因子で、オッズ比は2.5でした。カナダのある外傷センターでは、重傷を負った騎手のうちヘルメットを着けていたのはわずか9%でした。すべての研究の結果がそろっているわけではありません。地方のセンターでウエスタン乗馬の騎手の重症例53件を調べた研究では、ヘルメットと関連していたのは表在性のケガの減少だけでした。それでも、エビデンス全体はひとつの方向を指しています。

ヘルメット:誰が着けていて、どう効いたか

いずれも観察研究で、ランダム化比較試験はありません。

米国の外傷センターの子ども
ヘルメット着用の記録:わずか19.7%
脳損傷:着用32.4%、非着用55.3%
非着用時の脳損傷の調整オッズ:2.5倍
Short et al., 2017
大学の騎手357人
常にヘルメットを着用、イングリッシュ:92.5%
ウエスタン:23.3%
ウエスタンの騎手は頭部のケガの繰り返しが多い
Picken et al., 2025

出典:Short et al., Journal of Pediatric Surgery(2017年);Picken et al., Clinical Journal of Sport Medicine(2025年)

シュールな作風の点描画。点でできた球体の一部がなめらかな黒い帽子で覆われ、低い台の上に載っている。横の地面には小さなブロックが別に置かれている。
大事な部分を覆う、小さなカバー。

ヘルメットの習慣は、乗馬のスタイルによって大きく違います。大学の騎手357人では、イングリッシュ乗馬の92.5%が常にヘルメットを着けていたのに対し、ウエスタン乗馬では23.3%で、ウエスタンの騎手のほうが頭部のケガを繰り返したという報告が多くなっていました。基準も厳しくなっています。国際馬術連盟の規則では、2028年から競技用ヘルメットは、認められた4つの規格のうち少なくとも2つを満たす必要があります。ヘルメット以外になると、エビデンスは不確かになります。ポニークラブのデータでは、フォーム製のボディプロテクターはクロスカントリーでのケガのリスク低下と関連していました(相対リスク0.64)が、平地での騎乗や障害飛越では関連がありませんでした。騎手が鞍から離れると膨らむエアベストは、実際の落馬を調べた研究ではケガの率の高さと関連していました。国際的な総合馬術では、エアベストを着けた騎手は重傷のオッズが1.7倍でした。リスクの高いコースで選ばれやすいからかもしれませんが、いずれにしても効果がある証拠にはなりません。ぶつかると崩れるように作られたフランジブル障害にも、同じようなわかりにくさがあります。もっとも危険な障害に設置されるため転倒・落馬率が高くなり、どれだけ役立っているかはデータからはまだわかりません。

ヘルメット以外の防具

ポニークラブと国際的な総合馬術の観察データによる推定値。1.00を超えるとリスクが高いことを示します。

ボディプロテクター:クロスカントリーでのケガ0.64
エアベスト:落馬時の重傷・死亡1.7倍
フランジブル障害:転倒・落馬のオッズ1.28倍
回転転倒(British Eventing 2023年)2%

出典:Andres et al., BMJ Open Sport & Exercise Medicine(2018年);Nylund, PhD thesis, University of Sydney(2026年);Bennet et al., Equine Veterinary Journal(2023年);TRL report CPR4141(2024年)。いずれも選択バイアスの影響を受けています。

地上で蹴られるケガは、鞍からの落馬に比べて研究がずっと少ないのが現状です。それを減らす方法を検証した研究はなく、わかっているのはその規模だけです。蹴りは騎乗していない人のケガの最大の原因で、ドイツのデータでは、蹴られた患者のほうが手術を必要とすることが多くなっていました。厩舎で馬の世話をする時間にもリスクはあります。ほかの年齢層で救急受診率が下がるなかで上昇した高齢の騎手や馬の世話をする人こそ、このことを意識しておきたいグループです。

「やめればいい」が答えではない理由

乗馬は立派な運動です。英国馬協会(British Horse Society)の報告書のための実験室での測定では、一般的な騎乗は約3.7メッツ、速歩は約5.0メッツ、手入れと鞍付けは約3.5メッツでした。一般的な定義でいう中強度の活動にあたります。同じ報告書の騎手1,248人への調査では、68%が週3回以上、30分以上の騎乗や厩舎作業をしており、女性の37%は45歳を超えていました。また80%以上が、乗馬で明るい気持ちになる、リラックスできる、幸せを感じると答えています。報告書は協会の依頼によるもので、自己申告に頼っているため、証明ではなく実態の記述として受け止めてください。

運動としての乗馬

実験室で測定した、馬に関わる活動のエネルギー消費。3メッツ以上が中強度の活動にあたります。

速歩5.0
一般的な騎乗3.7
手入れと鞍付け3.5
中強度の基準3.0

出典:Church et al., The Health Benefits of Horse Riding in the UK, University of Brighton for the British Horse Society(2010年)

シュールな作風の点描画。長い地平線の上で、点でできた小さな球体が、ずっと大きな球体の横に並んでいる。どちらの影も同じ方向に傾いている。
大きさは違っても、向かう方向は同じ。

治療としての乗馬に関する研究もあります。脳性まひの子どもを対象にした治療的乗馬とヒポセラピー(乗馬療法)の2つのメタアナリシスは、一部異なる結論に達しました。一方は姿勢とバランスの改善を認め、もう一方は筋肉の左右差に短期的な効果を認めたものの、より長いプログラムでも運動機能全体への有意な効果は認められませんでした。エビデンスはバランスについては中程度、より広い機能についてはそれより弱く、これはほとんどの運動療法に当てはまる評価です。

だからといって、水泳と同じ意味で乗馬が安全だというわけではありません。リスクが、騎手自身が影響を与えられる場所に集中しているということです。認証済みのヘルメットを毎回着けましょう。習慣がもっとも弱い短い外乗やウエスタン乗馬のときも同じです。地上での作業も、騎乗と同じくらい慎重に。年齢を重ねるほどそうです。競技では、リスクが特定の障害に集中していること、そしてエアベストのような装備は、買う人が期待するほどの保護効果をまだ示していないことを理解しておきましょう。バイクとの有名な比較は現代のデータでは裏づけられていません。裏づけられているのは落馬と蹴りであり、どちらも起こりにくくしたり、被害を小さくしたりできます。

よくある質問

Q. 乗馬はバイクより危険ですか?

この説の出どころは、1990年にCDCが引用した1985年の書籍の1章です。現代の研究でそれを確認したものはなく、時間で比較すること自体が適切でない可能性もあります。

Q. 乗馬でもっとも多いケガは何ですか?

騎乗中のケガの大半は落馬によるもので、地上でのケガでもっとも多いのは蹴りによるものです。頭部、手足、胸部のケガはいずれもよく見られます。

Q. 乗馬用ヘルメットは効果がありますか?

観察研究では、ヘルメットは脳損傷の減少と重症度の低さに一貫して関連しています。ただし、ランダム化比較試験はありません。

Q. エアベストで乗馬のケガは防げますか?

現在のエビデンスでは、防げるとは言えません。実際の落馬を調べた研究では、ケガの率の高さと関連していました。リスクの高いコースで選ばれやすいことも一因と考えられます。

Q. 乗馬はよい運動になりますか?

はい。騎乗と厩舎作業は中強度の運動にあたり、速歩ではさらに強度が上がります。

まとめ

  • 米国の乗馬のケガの約3分の2は騎乗中に起こり、その多くは落馬です。地上でのケガでは、馬に蹴られるのが最大の原因です。
  • 「乗馬はバイクより危険」という有名な説の根拠は、1985年の書籍の1章にすぎません。
  • 救急受診は全体では減りましたが、60歳以上では140%増えています。
  • ヘルメットは脳損傷の減少と一貫して関連しています。エアベストには、ケガを防ぐ効果が確認されていません。
  • 騎乗も厩舎作業も中強度の運動です。認証済みのヘルメットを毎回着け、鞍の上と同じくらい地上でも気をつけましょう。

この記事は公表された研究のまとめであり、医学的な助言ではありません。頭を打って意識の混乱、嘔吐、悪化する頭痛がある場合は、すぐに医療機関で診察を受けてください(日本では119番)。脳しんとうが疑われる場合は、医師の許可を得てから乗馬を再開してください。

さらに読むなら:米国の救急データについては Acton et al., American Journal of Emergency Medicine 38(6):1062–1068(2020年)、総合馬術の転倒・落馬については Bennet et al., Equine Veterinary Journal 55(3):463–473(2023年)。当サイトのスキーとヘルメットの記事では、転倒の多い別のスポーツで、ヘルメットにできることとできないことを解説しています。

おすすめの3冊
  • Horse Brain, Human Brain、Janet Jones(2020年)。認知科学者で騎手でもある著者が、馬が世界をどう知覚しているか、その知識で地上での安全な扱い方がどう変わるかを解説しています。
  • Horse Girls、Halimah Marcus 編(2021年)。騎手たちが、馬に惹かれる理由を綴ったエッセイ集。落馬やコスト、それでも馬のもとへ戻っていく理由も語られています。
  • Horse、Geraldine Brooks(2022年)。19世紀に実在した競走馬を軸にした小説。統計よりも、この競技の歴史を知りたい人に。

参考文献

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