猛暑のクリケット、打者が1セッションごとに上げる1℃
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- トップレベルの打者の深部体温は、打席での2時間のセッションごとに約1℃上がりました。守備の選手はほとんど上がらず、天候より打席にいた時間のほうが大きく影響していました。
- 暑いセッションで水分が足りないと、選手は体重の2.8〜4.3%を失いました。3.7%の脱水では、投球のライン(左右)の正確さが2割近く落ちました。
- 危険が集まるのは、防具をフルに着けた打者、速球投手、高温多湿の地域、湿度の危険を軽く見がちなジュニア、医療体制の乏しいアマチュアです。女子選手はほとんど研究されていません。
- 暑熱対策の規定は給水と冷却の休憩を増やし、極端な条件では試合を中断させますが、その基準値はモデルにもとづくもので、クリケットの現場で検証されたことはほとんどありません。
2025年3月15日、40代のクラブ選手ジュナイド・ザファル・カーンさんは、アデレードのコンコルディア・カレッジ・オーバルで40オーバーを守ったあと、打席に向かいました。気温は40℃を超えていました。打ち始めて7オーバーで倒れ、救急隊員の処置もむなしく亡くなりました。所属する協会の規則では、試合を止めるのは42℃を超えたときだけでした。カーンさんはラマダンの断食中だったと報じられており、死因は公表されていません。
打者の側に目を向けるべき理由は、クリケット自身の測定が示しています。シェフィールド・シールド(豪州の国内一級リーグ)の選手38人が4日制の試合6試合で体温センサー入りのカプセルを飲み込んだところ、打者の深部体温は打席での2時間のセッションごとに約1℃上がりました。守備の選手の体温はほとんど上がらず、天候そのものの影響はどちらにも意外なほど小さいものでした。
この記事では、暑く長い一日がクリケット選手の体・水分・技術に何をもたらすのか、危険がどこに集中するのか、暑熱対策の規定や冷却、暑熱順化にどんな効果が示されているのか、その根拠が見かけより薄いのはどこか、そして答えがプレーをやめることではなく慎重にプレーすることである理由を見ていきます。2025年7月の報告書は、その年のIPLの試合のほぼ半数が「厳重警戒」または「危険」レベルの暑さの中で行われたとしています。
炎天下の長い一日がクリケット選手にもたらすもの
クリケット選手は1日に最長8時間フィールドに立ち、投手は最大150回も助走して投げることがあります。2018年にSports誌に載った豪州のカプセル研究では、打席にいる選手の深部体温の中央値は38.5℃で、試合前の37.6℃を上回りました。39℃を超えた測定値は18回ありましたが、熱中症と診断された選手はいませんでした。気温、湿度、暑さ指数(WBGT、湿球黒球温度)の影響はごくわずかで、大きかったのは打席にいた時間と運動のきつさでした。
打者の深部体温を上げたもの
各要因が1単位増えるごとの深部体温の上昇(モデル推定)。豪州の一級リーグの試合で、打撃中に測った47回の値から。守備の選手では天候との関連はまったく見られませんでした。
出典:Stay et al., Sports 6(4):164(2018)。観察研究。資金はクリケット・オーストラリアで、同団体は解析に関与していません。
もうひとつの代償は汗です。1993年にInternational Journal of Sports Medicineに載った研究では、暑い日の実際の試合で測定した速球投手3人が、わずか2セッションで体重の4.3%を失っていました。豪州北部の熱帯地域での博士論文は、ワンデー(1日制)の試合の発汗量を1時間あたり0.72〜1.11リットルと中程度としながらも、かなりの脱水に陥った例を報告しています。体重が1%減るごとに、深部体温はおよそ0.15〜0.20℃上がります。
暑さの中でクリケット選手が失った体重
開始時の体重に対する割合で、飲んで補えなかった汗の量の目安。小規模な研究で、括弧内は選手の人数。
出典:Gore et al., International Journal of Sports Medicine(1993)、Gamage et al., IJSNEM 26(6):531(2016)、Devlin et al., Journal of Science and Medicine in Sport(2001)。
水分とともに技術も失われます。スリランカでは30人の選手が高温多湿の中で2時間の練習を2回行い、1回は自由に飲み、もう1回は水分を制限しました。体重の減少を1%以内に抑えた場合、技術の有意な低下は見られませんでした。3.7%の脱水では、投球のライン(左右)の正確さが2割近く落ちました。それ以前の豪州の試験でも、投手7人で同じ傾向が見られ、落ちたのは正確さで、球速は落ちませんでした。10代の選手16人では、ヘルメットをかぶって打つと注意力が損なわれ、反応時間も遅くなりました。
暑さの中で2時間練習したあとの投球、飲み物の有無別
スリランカのクリケット選手30人で、練習前からの低下率。投球の長さ(距離)の正確さには影響がありませんでした。
出典:Gamage et al., International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism 26(6):531(2016)。
クリケットのフィールドで起きる暑さのトラブルの多くは熱疲労です。疲れ切ったり、めまいやけいれんが起きたりして、プレーを続けられなくなる状態です。労作性熱射病はこれとは別物で、はるかにまれです。深部体温がおよそ40.5℃を超え、錯乱や異常な行動、虚脱といった脳の働きが損なわれる兆候を伴うものと定義されます。命に関わる緊急事態で、障害の程度は高体温がどれだけ長く続いたかで決まります。
危険が集中するところ

最も多くを背負うのは打者です。豪州の研究で体温の上昇が見られたのは打席にいるときだけで、著者らは運動のきつさ、ランニング(打者が走って得点すること)、そして防具の組み合わせを挙げました。長ズボン、レガース、太ももと腕のガード、グローブ、ヘルメットが、体の中でもとくに汗をかく部分を覆っています。ウィケットキーパーや打者の近くを守る野手も同じような防具を着けますが、同じようには体温が上がりませんでした。運動量が少ないためと考えられます。速球投手は最も多くの水分を失い、そのうえに速球投手とネックガードについての記事で取り上げた体への負担も抱えています。
場所も重要です。2025年7月、クライメート・セントラル、フロントランナーズ、英国スポーツ持続可能性協会(BASIS)、ザ・ネクスト・テストがまとめた報告書『Hit for Six: The Danger Zone』は、危険とみなす37℃以上の日数を数えました。インドでは2024年に52日で、5年平均の46日を上回りました。パキスタンは年平均83日、豪州は46日です。これは選手を測ったものではなく、環境団体などが気象データを数えたものです。
若いクリケット選手が熱中症の危険を高めると考えるもの
スリランカの13歳以下の学校クリケット選手365人のうち、それぞれの状況で熱中症に「なりやすい」と答えた人の割合。
出典:Gamage, Fortington, Finch, BMJ Open Sport & Exercise Medicine 5(1):e000508(2019)。横断調査。
とくに心配なのはジュニアです。調査に答えたスリランカの13歳以下の選手の多くは、暑さとのどの渇きを危険だと認識していましたが、湿度を危険と考えたのは約4分の1、ヘルメットやレガースに危険を感じたのは5人に1人足らずでした。研究者らは、コーチや審判、大会の運営者が子どもに代わって危険を管理しなければならないと結論しています。2019年2月には、クリケット・オーストラリアが暑さのため15歳以下の全国選手権の試合時間を短縮しました。
記録に残らない負担を最も多く抱えているのはアマチュアです。2002〜2004年の豪州の入院記録では、スポーツ全体で暑さによる入院が148件あり、クリケットは発生率が最も高い競技のひとつでした。女子クリケットはほとんど研究されていません。2025年の総説は女子選手を対象とした研究179件を見つけましたが、生理学は4件、栄養と水分補給は2件だけでした。試合中の女子選手の深部体温を測った研究は、私たちが調べた限り見当たりませんでした。
効果が測定された対策

クリケット・オーストラリアの地域クリケット向けの指針は、日陰の気温、湿度、風、日差しから算出する「暑熱ストレス危険指数」を使います。指数が4〜7なら20〜30分ごとの追加の給水休憩を検討し、8〜10なら15〜30分の長めの冷却休憩をとります。10を超えると試合を中断し、指数が下がらなければ打ち切りです。18歳未満には、より慎重な別のツールが使われます。40競技を対象とするスポーツ医学オーストラリア(SMA)の暑熱対策は、2024年に作り直されました。
2026年6月に更新されたイングランドの一般向け指針には、数値による基準がありません。国の熱中症警戒情報を使い、給水休憩の延長、冷たいタオル、日陰、試合時間の短縮、日中の暑い時間を避けた開催などを挙げる一方、打者はヘルメットを外さないよう念を押しています。2018年時点の国際的な競技規則では、追加の給水休憩は審判の判断に委ねられていました。こうした休憩を支える生理学は暑熱順化、冷却、水分補給で、いずれもクリケット選手で試されていますが、対象はどれも少人数です。
暑熱トレーニングと事前冷却でクリケット選手に起きた変化
対照群と比べた変化率。暑熱順化はクラブ選手12人、約30℃での自転車こぎ4回。事前冷却は中速球投手10人。括弧内は90%信頼区間。
出典:Petersen et al., International Journal of Sports Physiology and Performance 5(4):535(2010)、Minett et al., Journal of Sports Sciences(2012)。
暑さの中で短時間の激しい自転車こぎを4回行うと、クラブ選手がその後に暑い中を走ったときの心拍数が1分あたり約11拍下がり、汗の塩分も薄くなりました。部分的な暑熱順化の典型的な兆候です。6オーバーの投球の前に複数の方法を組み合わせて約32℃の中で事前冷却すると、体への負担は減り、オーバー間のダッシュも速くなりましたが、球速や正確さは変わりませんでした。テニスでは、10分間の休憩で選手の深部体温が0.25℃下がりました。
まれに選手が倒れたときの対策は、根拠が最もしっかりしています。ファルマス・ロードレースでは18年間に労作性熱射病の走者274人を全身の冷水浸漬で1分あたり約0.22℃のペースで冷やし、全員が助かりました。専門家の合意は「搬送より先に冷却」で、倒れてから30分以内に深部体温を39℃まで下げることです。
クリケットの暑熱対策の規定を支える根拠は、整然とした区分が思わせるより薄いものです。生理学者のジョン・ブラザーフッドは2007年の総説で、スポーツ界が定める環境の上限値は「根拠によって正当化されていない」と論じました。SMAの暑熱対策は国際的な暑熱負担の規格をもとにしたモデル推定で、最初の版には、暑く乾いた極端な条件では危険を低く、湿度の高い極端な条件では高く見積もっているという声が寄せられました。クリケットで最も優れた現場の研究では、天候より打席にいた時間のほうがはるかに大きく影響しており、それは天気予報には映りません。さらに、スポーツでの熱中症は、病院での分類の仕方もあって、少なく記録されています。
答えがプレーをやめることではなく、慎重にプレーすることである理由

クリケットで重い熱中症が起きることはまれです。豪州の研究者は、スポーツにおける暑さを重大な健康被害の原因としてはまれなものと位置づけており、カプセル研究のトップ選手たちも39℃を超えながら体調を崩しませんでした。クリケットには、多くのスポーツにないものもあります。オーバー間の合間、給水休憩、昼食とティーの休憩です。危険は、それをうまく使わないことから生まれます。日陰も氷もなく、昼食から打ち続けている打者に誰も目を配らないまま、最も暑い時間帯にプレーを続けることです。
測定にもとづく対策はシンプルです。天気予報や暑さ指数を確認し、暑い時期は開始を早め、給水休憩を増やし、日陰と冷やしたタオルを用意して、プレーしていないときはヘルメットやレガースを外します。体重の減少を開始時の約1%以内に抑えるよう飲み、暖かくなり始めの数週間で暑さに体を慣らし、体調が悪いときや熱があるときは休みます。暑さの中で錯乱したり倒れたりした人は、すぐに、できれば冷水で冷やし、救急車を呼んでください。
よくある質問
何度になったらクリケットをするには暑すぎますか?
決まった1つの数字はありません。クリケット・オーストラリアは気温、湿度、風、日差しを組み合わせた指数を使い、10を超えると試合を中断します。アデレードの42℃のように気温だけで決める地域の協会もあり、ECBは国の熱中症警戒情報を基準にしています。
クリケット選手はどれくらい水分を失いますか?
小規模な研究では、十分に飲まずに暑いセッションをこなした選手が体重の2.8〜4.3%を失いました。スリランカの試験では、減少を約1%以内に抑えると投球の正確さが保たれました。
ヘルメットのせいで打者は暑くなりすぎますか?
防具と運動量が合わさって、打者はほかの選手より体温が上がりやすいようです。小規模な研究ではヘルメットと反応の遅れとの関連も示されました。それでもヘルメットは頭の重いけがを防ぐので、打つときは着け、オーバーの合間には外しましょう。
熱疲労と熱射病の違いは何ですか?
熱疲労では、疲れやめまいでプレーを続けられなくなりますが、たいていは休息と日陰、水分補給で落ち着きます。熱射病は、深部体温が非常に高くなり、錯乱や虚脱を伴う状態で、すぐに体を冷やし、救急医療を受ける必要があります。
まとめ
- トップレベルの打者の深部体温は、打席での2時間のセッションごとに約1℃上がりました。守備の選手はほとんど上がらず、天候より打席にいた時間のほうが大きく影響していました。
- 暑いセッションで水分が足りないと、選手は体重の2.8〜4.3%を失いました。3.7%の脱水では、投球のライン(左右)の正確さが2割近く落ちました。
- 危険が集まるのは、防具をフルに着けた打者、速球投手、高温多湿の地域、湿度の危険を軽く見がちなジュニア、医療体制の乏しいアマチュアです。女子選手はほとんど研究されていません。
- 暑熱対策の規定は給水と冷却の休憩を増やし、極端な条件では試合を中断させますが、その基準値はモデルにもとづくもので、クリケットの現場で検証されたことはほとんどありません。
- 慎重にプレーを。暑い時間帯を避けて日程を組み、休憩ごとに体を冷やして水分をとり、暑さに体を慣らし、倒れた人はすぐに冷やすことです。
この記事は公表された研究の要約であり、医学的な助言ではありません。心臓や腎臓などの持病がある方、薬を日常的に飲んでいる方、断食中の方、以前に熱中症になったことがある方は、暑い時期にプレーする前に医師や理学療法士に相談してください。暑さの中での錯乱や虚脱は緊急事態です。すぐに救急車を呼び、体を冷やし始めてください。
さらに読む:一級リーグの試合中の深部体温は Stay et al., Sports(2018)。脱水と技術は Gamage et al., International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism(2016)。豪州の暑さ指数の成り立ちは Tartarini et al., Journal of Science and Medicine in Sport(2025)。
- The Heat Will Kill You First、Jeff Goodell(2023)。極端な暑さが体や都市、仕事に何をもたらすかを描いたジャーナリストの本。スポーツが暑熱対策を見直している背景を知るのに役立ちます。
- The Art of Uncertainty、David Spiegelhalter(2024)。ケンブリッジの統計学者が、不確かさの中でどう判断するかを解説します。規定がモデル推定の基準値や小規模な研究にもとづくときの読み方に役立ちます。
- The Data Detective、Tim Harford(2021)。統計を見きわめる10のルール。見出しの数字が投手3人の測定や気象データの集計から来ているときに役立ちます。
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